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馬運車はさながら“グリーン車”。
最高の装備は馬も人も惹き付ける。

posted2020/05/22 20:00

 
馬運車はさながら“グリーン車”。最高の装備は馬も人も惹き付ける。<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

美浦の車両基地に並ぶ馬運車。買い替えは容易でないため、15年程度は現役で走り続ける。

text by

雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

PROFILE

photograph by

Kiichi Matsumoto

 スプリントの世界で圧倒的な強さを見せたサクラバクシンオー。“中山の鬼”と呼ばれるほど中山競馬場を得意にしていたマツリダゴッホ。サラブレッドに適性や相性があるのと同じで、人間にも向き不向きというものがある。

 現在発売中のNumber1003号ではダービーにまつわる様々な新常識を取り上げている。その中で紹介した馬運車界初の女性ドライバー、日本馬匹輸送自動車株式会社の庄司茉美さんも自らの適性に導かれ、この世界に入ってきた1人だ。

 元々は航空自衛隊の自衛官。勤務していた松島基地でも乗用車から大型車まであらゆる車両を運転していた。

「航空自衛隊は全陸海空の中でも公安に認められた教習所を唯一基地の中に持っているんですね。そこで仮免も実地も終わらせてしまえば、あとは免許センターで筆記をやるだけで免許が取れるんです」

 庄司さんはそこで中型、大型、さらに牽引の免許も取得したという。

出会った、馬の名前が書かれた車。

 5年半の基地勤務の間には、東日本大震災という未曽有の大災害も起き、救助活動などで目が回るほどあわただしく走り回る日々も経験した。その後、退官して最初についた仕事は、まったく毛色の違う医薬品卸の営業職。アクセルを踏むのではなく、“足で稼ぐ”仕事に少しずつ違和感を感じていった。

「どうしても数字に追われる部分が合わないなと感じていて、そんなときに免許更新を忘れてしまった同僚をサポートするために、専属ドライバーみたいになった時期があったんです。そうしたら『やっぱりドライバーはいいな。運転しているのが性に合っているな』と気づいたんです」

 やりたいことを見つけた庄司さんは、観光バスのドライバーとして再びハンドルを握る日々に戻った。関東を中心に、かつて自衛官として過ごした宮城など東北地方、西は岐阜や飛騨まで、ツアー客を乗せて日本中を走り回っていた。そのさなかに出会ったのが、有名馬の名前とJRAのロゴを車体に記した馬運車だった。

【次ページ】 「この車に乗りたいなって」

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