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馬運車はさながら“グリーン車”。
最高の装備は馬も人も惹き付ける。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byKiichi Matsumoto
posted2020/05/22 20:00
美浦の車両基地に並ぶ馬運車。買い替えは容易でないため、15年程度は現役で走り続ける。
働き方改革は馬運車ドライバーにも。
馬運車を運転してみたいと思い立った庄司さんが気になったのは、運転手たちの間でささやかれていた、ある“都市伝説”だったという。
「あそこ(日本馬匹)は入れないし、募集してないし、難しいよって。なかなか人員募集してないというのが業界の都市伝説だったんです。募集があっても縁故じゃないと入れないという話もあって(笑)」
それを聞いた小泉さんは「そんな伝説があるの? まあ、私の頃もなかなか入れないとは言われてましたけどね」と苦笑いを浮かべていた。
ドライバーの募集条件の1つが「大型自動車での実務経験1年以上」。最近は大型免許を持っている若いドライバーも減少傾向とあって、日本馬匹では数年前から即戦力の若手確保のために自衛官採用を始めた。(民間企業を経由してきた庄司さんはこの枠ではなく、偶然にも自衛隊出身者だった)
働き方改革による社会の要請を受け、最近はきちんと交代制を敷き、極端な長時間運転もなくなっている。必然的に人手が必要となるため、今年の4月に日本馬匹では新たに5人のドライバーを採用した。その中に初の女性ドライバーがいたというのも、女性ジョッキーや女性厩務員が活躍するようになった新しい時代の流れに呼応したものに思える。
馬のお尻に霧吹きでシュッ。
庄司さんは他の新人とともに現在はさまざまな研修を受けている。観光バスとは異なる馬運車の目線に慣れながら、馬に刺激を与えない運転技術を身につける。トレセンの利用が制限されているため、トレセン内の乗馬厩舎での研修はお預けとなっているが、コロナ禍が収まれば座学と実技の両面から馬の特性、性格も知らなければならない。
研修乗務で先輩ドライバーの補佐や荷出しの手伝いをしながら、馬とも接し始めている。馬の世話は主に担当厩務員がするものの、ときには手伝いが必要になる。たとえば、厩務員さんが引っ張ってもなかなか馬室に入ろうとしない馬のお尻に霧吹きでシュッと水をかける。すると驚いた馬は素直に前に進む。そうしたひとつひとつの体験が学びそのものだ。
3カ月の研修期間を経て、社内の審査をパスすれば、もう立派な馬運車ドライバー。夏競馬の季節になれば、福島や新潟、北海道へと馬運車を駆る庄司さんの凛々しい姿が見られるかもしれない。