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馬運車はさながら“グリーン車”。
最高の装備は馬も人も惹き付ける。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byKiichi Matsumoto
posted2020/05/22 20:00
美浦の車両基地に並ぶ馬運車。買い替えは容易でないため、15年程度は現役で走り続ける。
「この車に乗りたいなって」
庄司さんがその時に馬運車に心を惹かれた理由、門外漢では理解しきれないドライバー心理については、本編をお読みいただきたいが、同じようなことを感じる人は決して少なくはないようだ。なぜなら日本馬匹に入ってくるドライバーは、庄司さんも含めて、必ずしも競馬好きというわけではないからだ。
ドライバー歴30年以上、初めて乗った馬運車の車名は第15回ダービー優勝のミハルオーだったという小泉弘社長室長が説明してくれた。
「車が理由なんですよ。全国そこらじゅうで走っているので、それを見てこの車に乗りたいなって血が騒ぐみたいですよ。観光バスじゃない。トラックじゃない。なんなんだこれは? って。だいたい決まった時間にトレセンや競馬場から出ていくので、20台も30台も、40台も連なって走っている時もあるので」
製作は特殊車両の架装メーカー。
茨城県美浦にある車両基地に並んだ馬運車の眺めは確かに壮観だった。
シャシーは日野といすゞの2社のトラック。それを特殊車両の架装メーカーに依頼し、大幅に作り変えてもらう。振動を抑えるエアサスペンションや清潔な馬室、完璧な空調設備に、絨毯代わりになる分厚いゴム仕立ての床、ソファのようなお尻パッドまで装備している。“グリーン車”に乗り込むサラブレッドたちはもちろんだが、その車は馬だけでなく人間も惹きつける魅力を備えているということだろう。
基地にある馬運車を見ると、いくつかのタイプがあることに気づく。少し前のモデルはフロントガラスがバスのように大きい。これはトラックのボディにバスのお面をくっつけるという大胆な改造を施していたから。小泉さんは、初期のトラック型から変わったとき、「視界が全然違う。眺めがいいなあ」と感動したものだという。
ただし、衝突安全基準で求められるボディ強度のハードルが年々上がり、大きな開口部をもつ改造が難しくなった。衝突試験をパスすれば大丈夫という話もあるそうだが、3カ月も4カ月もかけて作った1台数千万円の代物を試験だけで壊すというのは誰が考えても現実的ではない。そのため、最近は再びトラック型に回帰しているのだ。