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1991年夏の佐賀学園vs.天理を忘れない。
若林隆信青年が見せてくれた意地。 

text by

田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byKyodo News

posted2020/05/16 11:50

1991年夏の佐賀学園vs.天理を忘れない。若林隆信青年が見せてくれた意地。<Number Web> photograph by Kyodo News

佐賀学園の若林隆信が天理高校の谷口功一から本塁打を放った瞬間の写真。谷口はドラ1で巨人入団を果たすも肩を痛めて活躍は難しかった。

高校通算46本目の本塁打は「会心の当たりでしたね」。

 試合前日。若林は谷口の最速145キロのストレートを想定し、それまでの練習よりもさらに近い距離から打撃投手に投げてもらい、ひたすら打った。

「前日だったけど、できるだけ速いボールに目が慣れた状態で試合に入りたかった」

 決戦の日。

 前日の練習での残像と、谷口のボールの軌道を照合させる。

「やっぱり速いな」

 第1打席での凡退が、若林を冷静にさせた。

「感覚の領域なんです。本当にちょっと、1打席目と見比べても絶対にわからないくらい、ほんのちょっとコンパクトにバットを振ろうと意識したんですよ」

 0-1とビハインドで迎えた3回。2死一、二塁のチャンスで、若林が谷口のボールに目を慣れさせ、タイミングを合わせるように粘る。カウント1ストライク3ボールからの5球目にファウルし、頷く。これでいい――。そして、2ストライク3ボールとなった6球目、真ん中低めのストレートに、ほんの少しだけコンパクトに振り抜いたバットを衝突させた。「一閃」という形容そのまま、打球は弾丸ライナーでライトラッキーゾーンを超え、フェンスに直撃した。

 高校通算46本目の本塁打。

「会心の当たりでしたね」

 感触は、いつでも蘇らせることができる。

ついに、ジャイアントキリング達成!

 3-1と逆転してからの若林は、投手としての役割も果たすべくスイッチを切り替えた。

 変化球はスライダーとカーブ、そして少しだけ落ちるフォークの3種類を操っていたが、天理打線の反応を見てストレートとスライダーの組み立てが有効だと判断する。

「スライダー、スライダーでカウントを整えて、最後はインコースの真っすぐ。コントロールだけ気をつけて、あとは『配球がバレてもいいから、これで攻める』って感じで投げました。天理とは初対戦だったんで、うまくいきましたね」

 逆転してから毎回のようにランナーを背負う厳しい投球が続いたが、若林は腹を括り、そのスタイルを貫いた。

 スコアは3-1。佐賀学園は大金星を挙げた。

「自分が打って、抑えて勝つ」

 若林は信条を具現化させ、ジャイアントキリングを完結させたのである。

【次ページ】 あの記者が「頑張ってください!」と。

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