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甲子園を目指す大学受験組の心中。
「素振りする意味あるんかなって」

posted2020/05/13 11:50

 
甲子園を目指す大学受験組の心中。「素振りする意味あるんかなって」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

「今の日本には高校野球以上の夏のイベントはねえぜ」とは、あだち充『MIX』の台詞である。

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph by

Hideki Sugiyama

 心の中が揺れるのは、やはり目標の大きさのためだろうか。

「素振りをしようと思ってバットを持つけど、意味あるんかなって。それだったら勉強した方がいいと思ったりもする」

 昨今流れてくるニュースに、甲子園を目指しながら進学を既定路線にしている文武両道の球児は、複雑な想いを掻きたてられている。夏の甲子園は開催されるのか、そうではないのか。「甲子園」の存在は大きく、その動向に気が気ではない。

 もっと上の目標があれば、違った気持ちの置き方もできるかもしれない。たとえば大学やプロで今の悔しさをぶつける。そのためにバットを振る。

 しかし公立校に在籍し、現役での大学進学を目指している球児にとっては「甲子園を目指さない」中で行う素振りに目標を見出せないでいる。新型コロナウイルス禍の中、早めに受験勉強に切り替えるかどうかの葛藤が彼らにはあるのだ。

「甲子園を目指す」ことに価値を感じる。

 インターハイの中止が決まり、夏の甲子園の開催が難しい空気が漂い始めた当初から筆者は、現在の3年生を救うためには、甲子園開催の可否にかかわらず地区大会は実施するべきだと思っていた。

 しかし、野球での先の目標を持っていない公立校の選手たちにとっては、「甲子園を目指す」試合にこそ取り組む価値があると思っているのが現実だ。「甲子園」幻想の前に、球児の心は弱い。

 夏の甲子園が中止になった場合について、「推薦を取れるかなど進路が心配」「ドラフトがどうなるか」という報道が多いが、それらは私学や強豪校のための論理だろう。受験で大学に進もうとしている球児への視点が全くない。

【次ページ】 部活か勉強かを選べない曖昧な状況。

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