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「もう時効」だから大仁田厚が語る
ノーピープル戦と電流爆破への伏線。 

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堀江ガンツ

堀江ガンツGantz Horie

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photograph byHidenori Daikai

posted2020/05/06 19:00

「もう時効」だから大仁田厚が語るノーピープル戦と電流爆破への伏線。<Number Web> photograph by Hidenori Daikai

海外武者修行の経験を生かしたアイデアと情熱で、プロレス界を盛り上げた大仁田厚。その姿勢から見習うべき点は多いはずだ。

電流爆破もテネシーでの経験から?

 そう大仁田が語る“元ネタ”となった試合は、'80年代初頭にテネシーで行われたジェリー・ローラーとテリー・ファンクの一戦。地元の英雄ローラーが、ライバルであるテリーとの抗争中、「ふたりだけで決着をつける」として、無観客試合が行われたのだ。

 結果は、テリーがローラーに勝利。ただし、これで抗争が終わるのではなく、ファンの間から再戦のニーズが高まり、あらためて大会場で決着戦が行われることとなったという。テネシーの帝王ローラーは、自分が負けるシーンを観客に見せることなく、リベンジマッチへと観客の興味を煽ったのだ。まさに大仁田が、夢の島でやった手法もそれなのである。

 大仁田と後藤も、夢の島のノーピープルマッチで引き分けたあと、8月4日にレールシティ汐留で再戦が決定。その試合形式は、完全決着をつけるために、史上初のノーロープ有刺鉄線電流爆破デスマッチとして行われることに決定する。

 じつは、この試合形式もテネシーでの経験がヒントとなっている。

「毎回毎回が勝負だったからね」

「リングの周りに有刺鉄線を張るっていうのは、テネシーでやってるのを見たことがあったんだよ。ノーロープではなかったけどね。だからそこからヒントを得て、日本でもやってみることにして。さらに夏のビッグマッチでは、野外でこれまでやったことがないデスマッチを模索して、どんなことができるか、会社の人間に調べさせていたんだよ。

 最初はファイヤーデスマッチがいいかと思ったんだけど、火を使うのは、東京都や区の許可がなかなか降りないってことで頓挫してね。それでテレビの特効さんに相談したら、小型カプセルの爆弾があるから、それを爆発させたらいいんじゃないかって話になった。そこから史上初のノーロープ有刺鉄線電流爆破デスマッチが生まれたんだよ。

 あの頃、カネもなかったから、なんとかアイデアをひねり出して、誰もやったことがないことをやるしかなかった。毎回毎回が勝負だったからね」

 ロープの代わりに有刺鉄線が張られただけでなく、そこに電流を流し体が触れたら小型爆弾が爆発するという前代未聞の試合は、両者が何度も被爆し、客席から「もう、わかったからやめてくれ!」との声が上がるほどの壮絶な試合となる。

 そして最後はサンダーファイヤーパワーボム3連発で大仁田が勝利。これまでファンが見たことがない過激な試合展開と、大団円の結末に会場は大「大仁田コール」に包まれ、この一戦をきっかけに大仁田人気は決定的となるのだ。

 そして大仁田vs.後藤の電流爆破デスマッチは、この年の東スポ「プロレス大賞」で、年間最高試合賞を獲得。さらに大仁田はMVPにも輝き2冠王となった。

【次ページ】 逆境を跳ねのけたアイデアと情熱。

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