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瀬古利彦が語るMGC成功の理由。
長期的な練習、1億円、一発勝負。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byKyodo News
posted2020/05/05 11:45
中村匠吾は、まさにMGCによって脚光を浴びた選手の1人である。
MGC、想定以上の成功の理由。
瀬古氏は、選ばれた6名の選手について、「完璧な布陣」と自信を見せる。彼らを選出したMGCは視聴率16.4%を記録し、レースそのものの面白さもあってマラソンに対する注目度が飛躍的に向上した。
さらに男女ともに最後の1枠を決めるMGCファイナルチャレンジになった東京マラソン、名古屋ウィメンズも大きな盛り上がりを見せた。白熱したレース、スター選手の誕生、お茶の間に浸透したマラソンのおもしろさ。瀬古氏は「MGCは大成功」と満面の笑みを浮かべた。
――MGCの成功は想定内でしょうか。
「いや、ここまでの成功は想定していなかったです。そこそこのレベルには行くだろうなっていうのはMGCを作った時から思っていましたけどね」
――成功の要因はどういうところにあると思いますか?
「MGCがスタートした2017年の時点から、大迫選手や設楽悠太選手が東京五輪に向けてマラソンの準備をしてくれた。これが非常に大きかった。
それまでは五輪の選考といっても本当に1発勝負だったので、五輪の前の年だけ頑張ればよかったんですよ。でも今回は、3年前から準備してMGCの出場権を獲得するために何回かマラソンに出場しながら経験を積んでいった。
そこでマラソンの難しさを知ると同時に全体のレベルが上がって、練習をしないと勝てないという意識が生まれて、質の高い練習をするようになった。そうしてみんなが力をためた状態でMGCに挑み、東京五輪の1年前に1発勝負で公平に決めることができた。
本番のレースのの面白さもあり、みんなが注目してくれた。こうした流れを作れたことがMGC成功に繋がったと思います」
男子で3回の日本記録更新。
――選手のマラソンへの取り組みが変わったということですか。
「だいぶ変わりましたね。一山選手はまだ22歳で、若いのにこの1年間で4回マラソンを走っているんですけど、MGCがなかったらこんなに走っていないでしょう。若い選手が何回もマラソンを走れる仕組みになったのは大きいですよ。
練習の取り組みもだいぶ変わったと思います。ファイナルチャレンジでは、男子は2時間5分49秒、女子は2時間22分22秒という目標タイムを設定したじゃないですか。ちょっと高いかなと思ったけど、みんながこれを乗り越えようと厳しい練習をしてきたことで、結果的に好記録が続出した。私はファイナルチャレンジをすることは最初考えていなかったけど、やってよかったと本当に思いました」
――結果的に男子は3回もの日本記録更新が実現しました。
「そうだね。ただ、それだけじゃないからね。女子では一山選手が2時間20分台を出したけど、あそこまで行くとは思わなかったし、男子も6分台の記録が4人も出た。正直、ここまでレベルが上がってくるとは思わなかった。
それにMGCが盛り上がるにつれて、実業団の意識も変わってきましたよね。MGCの注目度が上がれば、そこに選手を出すことは駅伝と同じぐらいの宣伝効果を生む。企業が応援してくれれば選手のモチベーションも上がる。MGCに選手を出すことがステイタスになっていったのは、我々強化スタッフからするととてもうれしいことだった」