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瀬古利彦が語るMGC成功の理由。
長期的な練習、1億円、一発勝負。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byKyodo News
posted2020/05/05 11:45
中村匠吾は、まさにMGCによって脚光を浴びた選手の1人である。
1億円の報奨金の影響は大きい。
MGCで勝って、東京五輪を走る。MGCのスタート以降、選手のモチベーションは高いレベルで維持されていた。だが、その選手のやる気をさらにかき立てたのが、日本実業団連合が出した1億円の報奨金だ。
2018年2月の東京マラソンで設楽悠太が2時間6分11秒で16年ぶりに日本記録を更新し、1億円を獲得して話題になった。その後、大迫が2度日本記録を更新し、計2億円を獲得した。
ロードに金が落ちているという言い方が正しいかどうか分からないが、夢のある分厚いニンジン作戦が選手を本気にさせ、日本記録に繋がったことは間違いない。
――1億円の報奨金も選手のレベルを押し上げた要因のひとつでしょうか。
「それは間違いないね。そりゃ1億円もらえるとなれば、選手は日本記録を切ろうとがんばりますよ。非常に大きなモチベーションになったと思う。それに加えてコーチにも5000万円が報奨されたんだから凄いことだと思いますよ。
1億円の報奨金はMGCが終わるまでの仕組みですけど、これだけ効果があったんだから次も続けてほしいね。1億円が高すぎるなら、もうちょい金額を落としてでもいいので」
――報奨金ではないですが、MGC後、大迫選手は選手に出場給や賞金が出てもいいという話をしていました。
「私もね、陸連に出してくれと言ったんですよ。でも今回は日本選手権を兼ねた大会ということで、陸上には100mとかいろんな種目がたくさんあるじゃないですか。そういうカテゴリーにお金を出していないので、マラソンだけに出すことはできないという判断だったんです。今回は初めてで何も出せなかったけど、次回MGCがあれば考えていきたい。やっぱりある程度、出してあげないと選手がかわいそうですからね」
厚底シューズは日本人に恩恵が大きい。
選手の練習、意欲、報奨金に加えて、注目されたのがナイキの厚底シューズだった。MGCではピンクとグリーンのシューズでスタートラインが埋まり、大きな注目を浴びた。それ以降、厚底は社会現象にまでなった。
――ナイキの厚底シューズは選手のレベルアップに貢献したと考えていますか。
「それも間違いないでしょう。3年前のシューズとは今のシューズは全く別もので、世界のトップランナーは、みんなナイキを履いている。日本選手もそのシューズを使いこなさないと世界に追いつけないと思っています」
――瀬古さんは、実際に履いて走ったことがありますか。
「こないだ、ちょっと履いてみました。このシューズは、ケニア、エチオピアの人よりも日本人の方が恩恵が大きいと思いましたね(笑)。彼らは骨格的に自然に前傾して走れる選手が多いんですが、日本人はそれが難しい。
でもナイキの厚底は、日本人の骨格でも前傾姿勢を作り、ラクに走れる状態を作ってくれるんです。正直、これをちゃんと履きこなしていけば日本人はもっと記録が出ると思います」