Jをめぐる冒険BACK NUMBER
ベガルタが2011年4月23日に灯した
J再開での希望と、手倉森監督の涙。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byToshiya Kondo
posted2020/04/23 20:00
劇的な逆転勝利後、サポーターと喜びを分かち合う仙台イレブン。ここから手倉森監督とベガルタの躍進が始まった。
ベガルタは勝利を諦めなかった。
ベガルタは、斉藤大介、富田晋伍とボランチをふたり投入し、守備を固めた。このまま引き分けに終わっても、拍手喝采の勝点1だったに違いない。
だが、彼らは勝利を諦めていなかった。
87分、相手陣内の右コーナー付近でFKを獲得する。ゆっくりとボールをセットした梁のキックがファーサイドに飛んでいく。そこに鎌田が飛び込んできた。ドンピシャヘッドで捉えたボールはポストに当たって跳ね返り、ゴールネットを揺さぶった。
「ポストに当たって中に跳ね返ってくるなんて……。みんなの勝ちたいっていう気持ちがゴールに結びついたんだと思います」(鎌田)
その後、巧みにボールをキープして時計の針を進めるベガルタの選手たち。アウェーゴール裏から「ベガルタ仙台」コールが絶え間なく響く。そして、アディショナルタイムの3分が過ぎ、ベガルタの勝利を告げるホイッスルが鳴ったとき、記者席で思わず立ち上がって拍手を送らずにはいられなかった。
「東北のためにね……精一杯……」
試合後、テレビ中継のインタビューに応えた手倉森監督の目に涙が浮かび、声が途切れた。
「ほんと劇的な勝ち方を、最高の終わり方をしたんでね。ほんと良かったです。選手が最後まで力強く、東北のためにね……精一杯やってくれました……」
だが、彼らのネバーギブアップ精神は、この試合だけでは終わらなかった。
「被災地の希望の光」になることを誓ったチームは、6月26日に清水エスパルスに敗れるまで、開幕から12試合無敗という偉大な記録を樹立し、クラブ史上最高位となる4位でフィニッシュする。さらに翌'12年シーズンには優勝争いを繰り広げ、2位に輝いた。
彼らの闘志、躍進は文字通り「被災地の希望の光」となったのだ。