Jをめぐる冒険BACK NUMBER
ベガルタが2011年4月23日に灯した
J再開での希望と、手倉森監督の涙。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byToshiya Kondo
posted2020/04/23 20:00
劇的な逆転勝利後、サポーターと喜びを分かち合う仙台イレブン。ここから手倉森監督とベガルタの躍進が始まった。
静寂に支配されたスタジアム。
大雨のなか、ホイッスルの音が鳴り響き、スタジアムは静寂に支配された。ピッチではセンターサークルに両チームの選手たちが並び、スタンドでは観客が起立して、被災者への黙祷が捧げられた。
ホームの川崎はこの年、チームのOBである39歳の相馬直樹監督を迎え入れたばかり。スタメンはGK杉山力裕、DF田中裕介、井川祐輔、横山知伸、小宮山尊信、MF稲本潤一、柴崎晃誠、登里享平、中村憲剛、FW矢島卓郎、山瀬功治の11人。エースのジュニーニョはコンディション不良のためベンチスタートだったが、それ以外はベストメンバーが並んだ。
一方のベガルタは、GK林卓人、DF菅井直樹、チョ・ビョングク、鎌田次郎、パク・チュソン、MF高橋義希、角田誠、梁勇基、関口訓充、太田吉彰、FW赤嶺真吾がスターティングラインナップに名を連ねた。
試合の入りに成功した仙台だが。
試合の入りに成功したのは、アウェーチームのほうだった。
赤嶺が、梁が、関口が、フロンターレの選手たちに襲いかかり、自由にボールを持たせない。なかでも、この試合に懸ける想いをプレーに滲ませていたのは、関口だった。
左のスパイクに「一人じゃない 信じよう 希望の光を!」、右のスパイクに「共に歩み 未来に向かって」と刺繍を入れたウインガーは、序盤から身を投げ出して、フロンターレの攻撃をストップした。
時間が経つにつれて雨脚は強くなり、スリッピーなピッチが試合展開を早くする。それゆえ両チームのコンタクトも激しくなったが、試合が荒れなかったのは、両チームのフェアな精神と、柏原丈二主審のフェアなジャッジのおかげだった。基準が明確で安定したジャッジが、48日ぶりのリーグ戦を引き締めていた。
37分、膠着したゲームが動く。ベガルタのミスによって先制点がフロンターレに転がり込んだ。センターバックの鎌田が裏を取られて山瀬に抜け出され、マイナスのクロスを田中に決められてしまうのだ。