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「サッカー選手なので、タイトルをとることは目標です。ただ…」遠藤航が抱く人生の目的。38歳になったときに一緒にプレーしたい選手とは?
posted2024/09/06 11:00
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
遠藤航ほど人生の目的を抱くことの素晴らしさを感じさせてくれる日本人サッカー選手はいないかもしれない。
サッカー少年だった遠藤は、幼少期から3歳下の弟と父親と3人でボールを蹴ることが多かった。彼の父親は学生時代にサッカーをやっていたため、遠藤にとっては人生で初めてのコーチのような存在だった。そんな父親と一緒に映像を見て、遠藤のサッカー人生には目的が生まれた。
「中学生の頃にプレミアリーグを父と見て、ヨーロッパでプレーしたいと思いました」
その後、Jリーグの湘南ベルマーレのユースチームに入り、高校3年生のときにプロの試合でデビューを果たした。年代別の代表チームに選ばれ、リオでの世界大会の代表チームでもキャプテンを務めた。ここまでの経歴だけを切り取れば、エリートコースを走っているように見えるかもしれない。
しかし、そうではない。世界のサッカー界の常識からすればむしろ、数周は遅れを取っている選手だった。
かなり後方からスタートしたヨーロッパでの戦い
2018年7月、ロシアでの世界的な大会後にようやくベルギーのシント・トロイデンへの海外移籍が決まり、日本を発つとき彼はこう話していた。
「(メンバーに選ばれながらも出場機会を得られなかった)ロシアでの悔しさを経験し、さらに海外志向というのは強くなって。そのタイミングでオファーをいただいたのは非常に大きかったですし、チャレンジしたいという気持ちは非常に強かったですね。ただ、クラブを選べる立場ではなかったです」
彼の夢は世界最高峰のプレミアリーグでプレーすることだったが、海外でのキャリアのスタートはイングランドを含めた5大リーグよりも下に位置するベルギーのジュピラーリーグだった。
また、25歳になってようやくヨーロッパのリーグに挑戦するというのも、サッカー界の常識からすればあまりに遅いものだった。
この頃から20歳前後で海外に移籍する日本人選手が一気に増えていた。そして、ヨーロッパでは若い選手が17歳にもなればプロチームに入って、普通に試合に出るような日常がある。実際、リオでの大会を戦ったU-23日本代表のチームメイトで、後にリバプールでプレーした南野拓実は20歳でヨーロッパに渡っている。そうした状況と照らし合わせれば、遠藤のヨーロッパでの戦いは、かなり後方からのスタートと言えるものだった。
それだけではない。多くの若手選手と決定的に異なっていたのは家族の存在だ。養うべき家族がおらず、独身だからこそ、大胆な挑戦ができる若手選手も多い。それに対して、遠藤はこの時点ですでに3児の父だった。
4児の父。夫婦円満の秘訣は決めないこと
家族の生活環境を優先させるために、ベルギーの田舎町であるシント・トロイデンから車で1時間ほど離れた、首都ブリュッセルの近くで家を探した。それから1年強で、ドイツのシュツットガルトへとステップアップすることになるのだが、その際にも重視したのが愛する家族が快適に過ごせる環境があるかどうかだった。2019年夏にシュツットガルトへ移籍するタイミングは、4人目となる子どもが生まれてまもない時期だったから、なおさらだった。遠藤は当時を振り返ってこう語っている。
「移籍は自分がひとりで決断しますが、家族の環境を整えたりすることにおいて、移籍は難しく、決断するまでに悩まされたりはします」
シュツットガルトからのオファーが正式に届いたのも、2019-20シーズンの開幕後で、そこまでは胃の痛くなるような時間もあった。それでも遠藤は、良いオファーが届くのを辛抱強く待った。そして、ひとたび移籍が決まれば、子どもの幼稚園や学校への送り迎えなど、可能な限り行なっていた。イクメンとして知られる遠藤は、夫婦円満の秘訣について以前、こう語っていた。