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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「イノウエの頭にはネリ戦のダウンが…」井上尚弥の“奇妙なKO未遂”を英国人記者はどう見た?「ドヘニー陣営はパニックを起こしていた」
posted2024/09/05 17:06
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
“全階級最強のボクサー”と称されるようになった井上尚弥(大橋)が最新の防衛戦を無事にクリアした。
9月3日、有明アリーナで行われたWBC、WBAスーパー、IBF、WBO世界スーパーバンタム級統一戦で元IBF世界スーパーバンタム級王者TJ・ドヘニー(アイルランド)に7回TKO勝ち。戦績を28戦全勝(25KO)と伸ばし、31歳となった“モンスター”の快進撃は続いている。
もっとも、この日序盤の井上はいつになく慎重で、相手の故障による結末もファンが慣れ親しんだほどに豪快なものではなかった。この試合内容をどう受け取るべきなのか。
試合後、リングマガジンの元編集人であり、現在はスポーティングニュースで健筆を振るう英国人ライター、トム・グレイ氏に意見を求めた。グレイ氏は軽量級、アジアのボクシングにも精通しており、その言葉には常に説得力がある。
〈全2回の1回目/以下、グレイ氏の一人語り〉
“静かな戦い方”を選んだ井上尚弥
強打のサウスポーであり、サイズ的に自身よりも一回り大きなドヘニーを相手に、今戦での井上は普段よりも静かな戦い方をした印象がありました。
ドヘニーは元世界王者であり、このスポーツのすべてを見てきたような大ベテラン。日本リングでも複数の試合をした経験があり、大舞台でも臆することはありませんでした。断然のアンダードッグだったにもかかわらず、序盤の挑戦者は上手に戦ったように思います。井上のエンジンがかかるまでに時間がかかり、第3ラウンドのポイントはボディを攻め、コンビネーションも放ったドヘニーが奪ったと見ました。
その時点までの井上は苦しんだとまでは言わないものの、ポール・バトラー戦でもあったように、打ち合う気のない相手に少し苛立っていた様にも見えました。とにかく攻撃的な選手だけに、下がってばかりの相手にはフラストレーションも感じるのでしょう。相手にパンチを出させ、ガードが開いたところでカウンターを打ち込みたいという気持ちもあったに違いありません。その結果、第3ラウンドはポイントを奪われたのです。