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ルイ・コスタにフィーゴ、ロナウド。
ひ弱なポルトガルが変貌した激闘。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2020/04/19 08:00
PK戦を終えて歓喜するルイ・コスタらポルトガル代表。“勝てない強豪”から脱皮しかけた瞬間だった。
わずか3分でオーウェンに……。
それでも、グループステージを突破したに過ぎないこの段階で、ポルトガル国民の多くはまだ半信半疑だったと思う。少なくとも「優勝」の二文字に現実味は伴っていなかったはずだ。
ラテンの血が滾り、その熱情がとめどなく溢れ出すのは、続く準々決勝でイングランドとEURO史上に残る激闘を繰り広げてからだ。
'04年6月24日、リスボンのエスタディオ・ダ・ルスは、「光のスタジアム」というそのネーミング通り、19時45分のキックオフを前にしてもまだ昼間の明るさを残していた。
サポーターの比率はほぼイーブン。ベンフィカ・リスボン のチームカラーである赤を基調としたスタンドの半分は、イングランドの白で埋まっている。ただし、きれいに二分されているわけではない。ポルトガル国民のおおらかさか、優しさか、まるでラグビーの試合のスタンドのように両チームのサポーターが混在していたのが印象的だった。
開始わずか3分、イングランドが先手を取る。コスチーニャがロングボールの処理を誤って後方に流したボールに誰よりも早く反応したのは、マイケル・オーウェンだった。“元祖ワンダーボーイ”は踊るようにくるりと回転しながら、右足アウトで鮮やかにネットを揺らした。
フィーゴ&C・ロナウドの両翼。
開幕戦の悪夢がよみがえる、開始早々のミスからの失点。それでも、タフさを身に付けつつあったポルトガルは簡単に膝を折らない。デコを中心にテンポ良くパスを回し、両翼からキャプテンマークを巻く、こちらも黄金世代の残党ルイス・フィーゴ、当時19歳の俊英クリスティアーノ・ロナウドの新旧ウインガーが果敢に縦へ仕掛けていく。
イングランドに誤算が生じるのは、27分。この大会で国際デビューを果たし、グループステージで4ゴールと絶好調だった18歳のウェイン・ルーニーが右足を負傷し、交代を余儀なくされたのだ。
試合前のメンバー紹介でもっとも大きな歓声と、もっとも大きなブーイングを浴びていた“新たなワンダーボーイ”がピッチを去ると、その後の構図はより明快になった。ボールを支配するポルトガルと、堅守からロングカウンターを狙うイングランド──。
めまぐるしく攻守が入れ替わる、息もつかせぬアップテンポなゲーム展開。なんとかこちら側に天秤を傾けようと、両指揮官がカードを切っていく。まず57分、イングランドのスベン・ゴラン・エリクソン監督が、ポール・スコールズに代えてフィル・ネビルを投入。早くも逃げ切りを図るような後ろ向きの交代策に対して、スコラ―リはどこまでも強気に押した。