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ルイ・コスタにフィーゴ、ロナウド。
ひ弱なポルトガルが変貌した激闘。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2020/04/19 08:00
PK戦を終えて歓喜するルイ・コスタらポルトガル代表。“勝てない強豪”から脱皮しかけた瞬間だった。
フィーゴ交代、右SBデコの博打。
63分、コスチーニャに代えてサイドアタッカーのシモン・サブロサを送り込み、マニシェのワンボランチにして 前線を分厚くする。75分、やや独善的なプレーが目立ち始めていたフィーゴを下げる大英断でスタンドをどよめかすと、その4分後には大歓声とともにルイ・コスタを投入。デコを右SBに回す奇策を打つのだ。
果たして、スコラ―リの博打はものの見事に当たる。
ゴールラインから憮然とした表情でピッチを後にし、そのままロッカールームへと去ったフィーゴの残像がまだ消えない83分だった。そのフィーゴに代わった今大会初出場のポスティガが、シモンのクロスを頭で合わせ、ついにポルトガルが追いつくのだ。
「プトゥガッ! プトゥガ!」
穏やかさの仮面を脱ぎ去ったポルトガル・サポーターの叫びが、スタンドを激しく振動させていた。
終了間際の89分、イングランドはデイビッド・ベッカムのFKから 最後はソル・キャンベルがしぶとく頭で押し込むも、これはGKへのファウル の判定でノーゴール。ホームアドバンテージは確かにあったかもしれないが、こうした空気の醸成こそが、スコラ―リの狙いでもあったはずだ。
ルイ・コスタとランパードの一撃。
延長に入っても一向にテンションの落ちない好ゲーム。興奮が最高潮に達したのは110分だった。開幕戦以来ベンチ要員に甘んじていたルイ・コスタが、するするとドリブルで中央を持ち上がり、コンパクトに右足を振り抜くと、糸を引くような美しい弾道は一度クロスバーに当たってゴールへ吸い込まれた。
その瞬間、C・ロナウドと魂のマッチアップを繰り広げていたアシュリー・コールがピッチに倒れ、ポルトガルのベンチからは控え選手たちが一斉に飛び出した。
ただし、試合はこれで終わらない。
115分、ベッカムのCKをジョン・テリーが頭で落とし、このボールをフランク・ランパードが反転しながら右足で突き刺したのだ。悲鳴と咆哮が不協和音を奏でる。
結局、勝負はPK戦に委ねられ、最後は自分で止めて、自分で決めた“素手のGK”リカルドの活躍でポルトガルがこの激闘を制するのだが、正直に言うと、その頃の僕はもうすっかり精根尽き果ててしまっていた。覚えているのは、ただただ猛烈な喉の渇きだけだ。