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國母和宏の表現者としての“ヤバさ”。
150cmの板で示す未知なる可能性。
text by
野上大介Daisuke Nogami
photograph byNick Hamilton
posted2020/04/14 11:30
映像作品が高く評価される國母和宏。彼にしか表現できない唯一無二の滑りをまた見せてほしい。
滑走力だけでは通用しない。
日本人のサポートは一切ない。ビデオテープの中にいた憧れのムービースターたちに交じり、かといって溶け込むことなく、彼らの邪魔をしないようにと車で行く距離にあったスーパーまで食材を求めに歩いては自炊する日々。実力はあれど言葉がわからない日本人高校生の苦労は想像に難くないが、あらゆることをひとりでこなす生活で身についたものもあった。
「撮影クルーに迷惑をかけずに、いい滑りをして映像を残すことだけに集中できていました。滑って、食って、寝て……。プロスノーボーダーとしての生き方を学びましたね」
当時をこう振り返っていた國母の言葉を思い出す。
さらに言えば、ルールや制約がないバックカントリーだけに、滑走力だけでは通用しなかった。欧米のブランドがシーンの中心に存在し、ライダーたちはそれらのブランドの広告塔として滑っている。発想力や創造力が重要なのは当然だが、さらにコミュニケーショ力が求められるのだ。
10年かけてムービースターの仲間入り。
US OPENで2連覇を果たした2011年、撮影を行っていた映像が同年秋にリリースされると、そのビデオパートに対して世界中から称賛の声が集まった。
「欧米にあるブランドからすれば、同じような実力だとしたら移動費などお金がかからない欧米のライダーの方がいいだろうし、言葉の壁も含めてコミュニケーションがとりやすい方がいい。アメリカが中心のスノーボードシーンに日本人として入っていくことが、どれだけ難しいか痛感しました。ここまで来るのに何年かかったんだろう……」
小学6年生からプロの世界に足を踏み入れて10年あまり。この時、國母はハーフパイプ競技の頂点だけでなく、ようやく“ムービースター”としての地位も手に入れたのだった。
「カズでやりたいって話をもらいました。カメラマン選びもムービーの構成もすべて自由にやっていいからって」
2017年晩夏。國母の下に当時の世界最大手メディア「TRANSWORLD SNOWBOARDING PRODUCTION」から熱烈なラブコールが届いた。しかも、同プロダクションとしては初のシグネチャー作品。主演・監督を務める映像作品を発表できるということは、Kazu Kokuboの名があれば世界中で売れるという確信がプロダクション側にあったということだ。