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國母和宏の表現者としての“ヤバさ”。
150cmの板で示す未知なる可能性。
text by
野上大介Daisuke Nogami
photograph byNick Hamilton
posted2020/04/14 11:30
映像作品が高く評価される國母和宏。彼にしか表現できない唯一無二の滑りをまた見せてほしい。
150cmの板で表現する“ヤバさ”。
國母が表現したいスノーボード。それは、人跡未踏のロケーションで繰り出される世界最高峰のバックカントリーフリースタイルである。
ビッグマウンテンに降り注いだ雪が織りなす自然美に自らをアジャストさせながら、まるでゲレンデ内に造成されたパークを滑るかのようにトリックを繰り出し、崖のような斜面を攻撃的なラインで滑降する。
気持ちよさや楽しさ以上に、上手さやカッコよさ、そしてヤバさを伝えたい。150cmあまりの1枚の板に乗るだけで、人間はこれほどまで自由に滑ることができるんだという未知なる可能性を示したいのだ。
クリエイターとの信頼関係。
それらを発信するためには精鋭スタッフを集めることも必要だった。1シーズンかけて世界中の雪山を飛び回り、納得のいく映像作品を生み出すためには、滑り手、撮り手、作り手の三拍子が揃っていないと不可能だということを國母は熟知していた。
2016年のRIDERS POLLで『VIDEO PART OF THE YEAR』を獲得したが、その映像作品の撮影後に國母は引退をほのめかしていた。万全の状態で臨んだにもかかわらずケガをしてしまい1カ月近く滑ることが許されず、求めていたフッテージを残せなかったことで思い悩んでいた。
しかし、蓋を開けてみると周囲の反応は好意的なものばかりで、素晴らしいビデオパートとして評価された。國母の表現力は、フィルマーによる映像美とエディターの編集力、演出力が掛け合わさることで、見事な作品に昇華されていたのだ。アスリートでありながらアーティストという側面も持ち合わせている彼らにとって、それらを最大限に表現できるクリエイターとの信頼関係は不可欠なのである。
世界中で“Kazu”と慕われている國母が世界最高峰のスタッフを束ね、タイトルに『KAMIKAZU』と銘打った作品は、ダントツの票数を獲得して2018年の『MOVIE OF THE YEAR』に選出された。『RIDER OF THE YEAR』とともに2冠を達成し、スノーボード史に残る名作となった。