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ラグビーW杯名場面No.1はあの事件。
感動よりも「楽しさ」を感じた突破。
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byGetty Images
posted2020/04/06 11:30
破壊力抜群の突破で、対戦相手を恐怖に陥れたWTBジョナ・ロムー。「ザ・カーペット」と呼ばれるトライシーンは、今も語り継がれている。
映画でも描かれた歴史的勝利。
では決勝で一番の名勝負は……1995年南アフリカ大会の南ア対NZはラグビーワールドカップ史上初の延長戦、標高1700mを超える薄い空気の中の死闘でもあり、すごい試合だったのですが、むしろクリント・イーストウッド監督の映画『インビクタス』で描かれたように、アパルトヘイト政策を撤廃し、ネルソン・マンデラ大統領のもとで国家建設を始めた新生・南アフリカの物語という歴史的な文脈に魅力があった気がします。
その意味では、昨年のワールドカップ日本大会で、南アフリカ代表で初めて黒人でキャプテンを任されたシヤ・コリシのもとで世界一を奪回したスプリングボクスの優勝、それもオールブラックスに完勝して優勝確実とみられたイングランドを圧倒しての優勝、付け加えればラグビーワールドカップで初めて、プール戦で1敗したチームとしての優勝……。本当に物語満載の、深い深いこくのある優勝でした。
ロムーが起こした「ザ・カーペット」。
……と、ここまでさんざん書いてきたのですが、ラグビーワールドカップを振り返って、実は僕の頭に最も鮮明に浮かんでいるのはここに書いた場面ではありません。僕の頭の中に鮮明に残っている、いまだに躍動している度ナンバーワンの光景は、1995年南アフリカ大会の準決勝(やっぱり準決勝)、ケープタウンのニューランズ競技場で行われたニュージーランド対イングランド。
ラグビーの歴史で「ザ・カーペット」と呼ばれるプレーです。いや、プレーと言うよりは「事件です」と言った方が正しいかな。
試合が始まって間もない前半2分でした。ボールを持ったNZですが、左に出したパスが乱れて、11番のジョナ・ロムーは下がりながらボールを拾います。イングランドのディフェンス陣はチャンスとばかりに前に出てくる。しかし、まだ20歳になったばかりのロムーは、襲ってくるタックラーに腕を伸ばしてハンドオフで突破。バランスを崩しながらも大股で195センチ、118キロの巨体を前に運び、最後はイングランドのFBマイク・キャットの腰の引けたタックルを踏みつぶして突破。そのままインゴール左中間にボールを叩きつけたのでした(キャットから見たら、どうタックルしていいかわからなかっただろうな。YouTubeで動画が残っていると思うので、ぜひその「事件」をお楽しみください)。