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ラグビーW杯名場面No.1はあの事件。
感動よりも「楽しさ」を感じた突破。 

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大友信彦

大友信彦Nobuhiko Otomo

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photograph byGetty Images

posted2020/04/06 11:30

ラグビーW杯名場面No.1はあの事件。感動よりも「楽しさ」を感じた突破。<Number Web> photograph by Getty Images

破壊力抜群の突破で、対戦相手を恐怖に陥れたWTBジョナ・ロムー。「ザ・カーペット」と呼ばれるトライシーンは、今も語り継がれている。

パンク寸前の平尾がビッグケイン。

 しかし、そう考えても、たくさんの場面がよみがえってきます。

 1991年大会で鮮明な記憶は、宿澤広朗監督率いる日本が記念すべきワールドカップ初勝利を飾ったジンバブエ戦。日本はこの大会で1試合最多となる9トライをあげたのですが、一番印象的なのは後半30分、自陣から平尾誠二キャプテンが豪快にカウンターで走り、大八木淳史さん、堀越正巳さんとつないでエケロマ・ルアイウヒさんが決めたトライです。

 パスで味方を走らせる場面が多かった平尾キャプテンが、この大会で初めて見せたアグレッシブな走り、ビッグゲイン。日本にとっては大会最後の試合のラスト10分。蓄積した疲労も打撲も頂点に達していた時間帯での激走です。

 試合のあと、平尾さんにこのプレーのことを聞くと、ちょっと照れくさそうに

「キツかったですわ、今日は」と笑って「みんな、パンクするくらい走らんと、日本のラグビーはできんのですよ。こっちがパンクするか、向こうがパンクするか、そこまでギリギリのところでやらんと通用せんのです」と言いました。

 自分の思いはさりげなくオブラートに包んで、チームの課題、収穫として言語化する。平尾さんらしいな、と今振り返っても思います。

忘れられない“ロス・プーマス”の快進撃。

 2007年大会の“ロス・プーマス”こと、アルゼンチン代表の快進も忘れられません。

 この大会で、世界ラグビーの伝統国、IRBオリジナルメンバー8カ国以外から初めてワールドカップ4強入りしたアルゼンチン代表ですが、初めて乗り込んだ準決勝では、この大会で優勝を飾る南アフリカの激しいコンタクトの前に疲労困憊消耗して(何しろチームとして初めて臨むワールドカップの6試合目だったのです)ボロ負け……。そこから中4日で臨んだ地元フランスとのブロンズファイナルでは、勇敢で痛快な展開ラグビーをこれでもかと繰り出して34-10の快勝! 

 準決勝で負けたときには『世界一になりたくてここまでやってきたけど、負けて本当に悲しい。3位決定戦には出ないよ』と言っていたアグスティン・ピチョット主将が、そんなこと言ったっけ? と言わんばかりに縦横無尽に走り回ってチームをリードしていたのが忘れられません。5日前には疲労困憊の極みに見えたチームでしたが、「みんなでもう一度戦って、3位を取りに行こう」と誓い合って臨んだブロンズファイナルでは、嘘のようにリフレッシュした戦いを見せました。アルゼンチンは、ラグビーのナショナルチームでは異色と言っていい、ファミリー的結束を最も感じさせるチームです。

【次ページ】 「ブライトンの奇跡」の衝撃度。

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