酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
今、1試合平均観客はNPB>大リーグ。
川崎球場の“29人”から隔世の感。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byNaoya Sanuki
posted2020/03/12 10:00
2019年に行われたイチローの現役ラストゲーム。東京ドームはまさに立錐の地なしという状態だった。
“29枚”の実販売数だった試合が。
ちなみに、1954年から1956年までパ・リーグにあった高橋ユニオンズ(1955年はトンボ・ユニオンズ)は史上最弱球団と言われ、観客動員も1956年は77試合で13万5850人しか動員できなかった。
この球団の入場者の「実販売数」の記録が残っている。
高橋ユニオンズのオーナー高橋龍太郎の孫の秋山哲夫さんが『高橋球団「ユニオンズ」3年間のあゆみ』という本を自費出版し、その中に1955年10月6日、川崎球場の近鉄戦の入場券実売枚数が29枚だったと書いているのだ。これがプロ野球における“最少”かもしれない。なお、この日の球団発表は350人だった。
私もずいぶん不入りの試合を見てきたが、お客が100人以下と言うのは見たことがない。
川崎球場に集まった“29人のお客”はどんな気持ちでグラウンドを見ていたのか? この試合には伝説の大投手、ビクトル・スタルヒンが代打で出場している。また元広島のエース、黒田博樹の父親の黒田一博が中堅で先発出場しており、見たかった気がする。
イチロー現役ラスト試合の賑わい。
プロ野球の場合、7割くらい入れば「ざっと見て満員近い」という感じになる。しかし「立錐の余地がない」と言う状況になれば、雰囲気はかなり違ってくる。
筆者が昨年、観戦した試合でそう感じたのは2試合ある。1つは3月21日、東京ドームで行われたアスレチックスとマリナーズの開幕シリーズ第2戦。あのイチローの引退試合である。
MLBの記録によるとAttendance(観客数)は、4万6451人。東京ドームは野球試合開催時には4万6000人が定員だ。
この球場は立見券も販売しているので正確な定員はわからないが、当日は最上階の席までびっしりとお客が入って波打っているように見えた。観客の大半は日付が変わっても帰らず、イチローが再びグラウンドに現れ、手を振ってグラウンドを一周するのを見届けた。