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日本ラグビーの交渉役、藤井雄一郎。
<前編>ジョセフHC再契約の裏側。
posted2020/03/16 11:50
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph by
Nobuhiko Otomo
快挙を成し遂げたラグビーW杯終了後、指揮官ジェイミー・ジョセフは日本協会と契約を更新し、再び2023年フランス大会へ歩みを始めた。その契約交渉に携わったのは日本ラグビーフットボール協会 日本代表チーム 男子15人制 強化委員長を務める藤井雄一郎氏だ。
スーパーラグビー・サンウルブズのGMも兼務する藤井氏に、昨年末から何度かインタビューする機会に恵まれた。交渉の裏側、そして今季でリーグ離脱が発表されているサンウルブズが置かれている立場とビジョンを聞くと、日本ラグビーの未来に必要なことが見えてきた。まずは、ジョセフHCとの契約交渉を振り返る。
――藤井さんは、昨年のW杯に向けてジェイミー・ジョセフHCの後見役を務めた形でしたが、同時にW杯後は再契約の交渉役を務めました。そこを振り返っていただけますか。
「今回分かったことは、日本ラグビー協会には契約交渉の専門家がいないことです。今回、日本協会はジェイミーと契約しようとしていたのですが、その競合相手がオールブラックスだったわけです。契約しようとすれば、相手よりいい条件を出さなければならない。でも相手もそう考えているから、相手が出してくる条件も毎日変わるんです。
正直、僕は協会からゴーサインが出る前から動いていました。実を言えば、W杯の前から動いていた。W杯が終わって、ジェイミーが結果を出していれば、再契約のハードルは上がります。それよりは、結果が出る前に契約延長してしまった方がいいだろうと僕は思って、打診していた。W杯でいい結果を出せるという自信は持っていたし、ジェイミーの感触も悪くなかった。これまでと同じ条件でもやってくれるか? と聞いたら『それでいい、やるよ』と言ってたんです。契約は勝ちを重ねれば重ねるほど難しくなる」
これまでの監督選びには、“競合”がなかった。
「でも、協会にはそういう感覚がなかった。ワールドカップが終わるまでは評価できないから、先に契約延長することはできないと。僕からしたら、ワールドカップで結果を出していたら、外国と競合するから条件は跳ね上がるよ、それよりも、先に押さえようよと思ったけど、その感覚はなかったんですね。実際、ワールドカップが終わったらジェイミーにはいろいろな国からオファーが来て、オールブラックスと取り合いすることになったわけです。
でも、これは仕方がないことだと思う。僕はサニックス(宗像サニックスブルース)の部長兼監督として、外国人選手を獲得する作業をしていたから、競合相手がいるのは当たり前なんです。契約交渉はスピード勝負という感覚は身についていた。だけど日本協会の監督選びというのは、基本的にはずっと競合相手のいない、日本の中でずっとやってきたんです」