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鬼才・柳澤健が綴った桜庭和志・伝。
「プロレスラーは最強」の真実とは?
text by
藤森三奈(Number編集部)Mina Fujimori
photograph byKeiji Ishikawa
posted2020/03/10 18:30
自らもブラジリアン柔術を学んでいるという著者の柳澤健。「格闘技は技術を知らなければ書けないので」(柳沢)
世界的なヒーロー、最高のMMAファイターとして。
――読者に「桜庭和志の物語と直接関係ないじゃないか」と思われる、という恐れはありませんでしたか?
「全然ありません。桜庭はホイスに勝ったと聞けば、ホイスって誰? グレイシーって何者? 柔術ってそもそも何? と知りたくなるのが普通だと思います。
桜庭和志の全体像を知るためには、桜庭和志ひとりの視点だけでは話にならない。
日本のファンは桜庭に何を託したのか? 敵であるグレイシー一族は桜庭をどう見ていたのか? ほかの格闘家たちは桜庭とホイスの戦いをどのような思いで見つめたのか?
桜庭和志はMMAの歴史にどのように位置づけられるファイターなのか?
多くの視点があってこそ、初めて立体的な像を結ぶことができるんです。
『2000年の桜庭和志』の冒頭では、桜庭がUFCホール・オブ・フェイムを受賞したシーンを書きました。
日本のファンは、桜庭和志をUWFの延長線上にいて、プロレスラーの強さを証明してくれたファイターと思っているけど、本当はそれだけじゃない。
世界から見た桜庭は、前田日明や高田延彦とは比較にならない、唯一無二のヒーローであり、史上最高のMMAファイターとさえ認識されているんだよ、と日本の読者に分かってもらいたかった。
柔術の起源からグレイシーに至るまでの流れ、グレイシーがブラジルで行ってきた数々のヴァーリトゥード、ホイスが初期のUFCで勝利した経緯を書かなければ、桜庭和志がグレイシー一族に勝利した重みを伝えられません。
遠回りに思われるかもしれないけど、実はこれが最短だと思っていました」
「格闘技は技術を知らなければ書けない」
――この一冊で、プロレス、格闘技について書くのはひと区切りでしょうか。
「そうですね。柔術のことは今後書くかもしれませんけど」
――あっ、そうだ。いまブラジリアン柔術を習っているんですよね?
「はい。桜庭を書くために柔術を身体で知りたくて始めたので、もう2年くらいになります。白帯ですよ(笑)。プロレスはお客さんのためにある作り物です。だから、観客の目線で書けばいい。
でも、格闘技は技術を知らなければ書けないと思いました。どんなに浅くても。
錦糸町でMAX柔術アカデミーを開いているマックス増沢先生にプライベートレッスンをお願いしています。マックス増沢先生はアメリカ西海岸の街トーランスにあるグレイシー柔術アカデミーでホイス・グレイシーに柔術を習っていたので、ホイスとホイラーの取材のアポイントもお願いしました」