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スポーツマンガはなぜリアル化した?
2010年代の潮流を探る3つの視点。
posted2020/03/06 11:00
text by
山内康裕(マンガナイト)Yasuhiro Yamauchi
photograph by
AFLO
「スポーツマンガ」と聞いて連想される言葉は、かつて「熱血」「必殺技」といったものだった。
そこに「熱血」×「リアリティ」のヒット作が生まれてきたのが1990年代だ。『SLAM DUNK』(井上雄彦)を筆頭に、「熱血」要素は残しながらも、よりリアルにスポーツの世界を描く作品が増えた。
2000年代に入り、スポーツマンガのリアル化はさらに進んでいる。スポーツマンガのリアル化はなぜ進み、それはどんな効果をもたらしたのだろうか。
ここでは、
(1)職業スポーツ
(2)少年スポーツ
(3)マイナースポーツ
という3つの観点から2000年代以降のスポーツマンガで起きている大きな潮流の変遷を考察していこう。
現在のマンガは、よりスポーツを楽しみ、学ぶサブテキストとしても活用できるポテンシャルを秘めている。「スポーツはフィクションよりもリアルで」とあまりマンガを手に取って来なかった方にも、これを機会に読んでみてほしい。
(1)職業スポーツのリアリティ
昭和の時代から、スポーツマンガは数多く描かれてきた。その題材になる競技として群を抜いていたのが野球とサッカー。
「必殺技」のオンパレード、いわゆる「トンデモ」的なものから、運動部のリアルを実直に描く熱血ものまで筆致はさまざまだったが、「舞台は学校の部活」「主人公は才能あふれる選手」という作品が常に王道だった。
しかし2000年前後には、そんなスポーツマンガの暗黙のルールに風穴を空ける作品が複数生まれた。
サッカーでは『GIANT KILLING』(ツジトモ/原案・取材協力:綱本将也)、野球では『グラゼニ』(原作:森高夕次/漫画:アダチケイジ)。
青年誌である「モーニング」(講談社)で発表され、ともに現在も連載中だ。
『GIANT KILLING』の主人公はイングランド帰りのサッカー監督。彼が、東京下町の弱小プロサッカークラブを率いて「ジャイアント・キリング」を起こすため、熱く、かつ緻密に奮闘するサッカーマンガだ。
選手ではなく監督が主人公である点が斬新な本作では、試合や育成だけでなく、ストーブリーグ、ファンや地域、日本代表など多くのステイクホルダーとの関係構築など、プロサッカーの奥深い世界を詳細に学ぶこともできる。
「サッカーでご飯を食べている人」のことを、雲の上の存在としてではなく、自分に近い目線から垣間見られるので、サッカーファンにとっては選手や関係者をより身近に感じることができるような作品だ。