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スポーツマンガはなぜリアル化した?
2010年代の潮流を探る3つの視点。
text by
山内康裕(マンガナイト)Yasuhiro Yamauchi
photograph byAFLO
posted2020/03/06 11:00
スポーツマンガの近年の大きな傾向として「リアル化」がある。もちろんそこには理由がある。
現在のど真ん中は、熱血×リアリティ。
(2)少年スポーツのリアリティ
2010年代前半になると、『SLAM DUNK』の直系といえる「熱血」×「リアリティ」な少年向けスポーツマンガの系譜がさまざまな競技に波及し、学生スポーツを科学的・構造的な目線から見る作品が増えてきた。
ここでは高校バレーボール部を舞台にした『ハイキュー!!』(古舘春一)、ユースサッカーを舞台にした『アオアシ』(小林有吾)を取り上げる。
2012年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載が始まった『ハイキュー!!』は、誰もが熱くなれる王道スポーツマンガを、高校のバレーボール部を舞台に発展的に描いている作品だ。
才能あふれる対照的な2人の選手が同じチームに入部し、部内のライバルとの、そして強豪校との戦いを通して成長していく。
発展的な描写としては、 バレーボールは他の競技と比較してもポジションごとに求められる資質や能力がはっきり異なり、そのため、選手ひとりひとりが適材適所で活躍できる=どんな選手にも「居場所」がある、ということが丁寧に描かれている。読みながらバレーボールのルールが自然とわかる内容でもあり、バレーボール自体への興味も誘うマンガだ。
2015年に「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載開始した『アオアシ』は、サッカーが題材で高校生が主人公の作品だが、その舞台は部活ではなく、プロのユースチームであるところが特徴的だ。
高校のサッカー部とトップチームの下部組織であるユースチームでは、その育成や指導方針はまったく異なっている。なかなか知る機会のない「プロのユース」についてリアリティをもって学べるところが面白い。
また、ポジションごとの役割や、才能を開花させる方法などが詳細に描かれているのも読みどころだ。
サッカー少年ならば高校のサッカー部とユースチームのどちらに行くか、親としてはどちらに行ってほしいか……なんてことを家族で考えるきっかけにもなる作品だ。
マンガ界全体の潮流として「熱血×リアリティ」の作品が増えてきたのは、2000年代にマンガ原作の実写ドラマや映画のヒットが相次ぎ、2010年代に完全に定着したことの影響も大きい。
30代~50代のマンガを読む層が大きく伸びていることも、その流れを後押ししている。