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スポーツマンガはなぜリアル化した?
2010年代の潮流を探る3つの視点。
text by
山内康裕(マンガナイト)Yasuhiro Yamauchi
photograph byAFLO
posted2020/03/06 11:00
スポーツマンガの近年の大きな傾向として「リアル化」がある。もちろんそこには理由がある。
現役選手たちはマンガで育った世代。
『グラゼニ』は、高卒でプロ入りした8年目の中継ぎ投手が主人公。「才能あふれるエース」が主人公の作品ではない。
タイトルの『グラゼニ』とは、“グラウンドには銭が埋まっている”という意味で 、プロの中では平凡な部類に入る選手が、自分の年俸を計算しながら、プロとして野球で食べていくためにはどうすれば良いかを考える。「プロ野球選手」をリアルに「職業」としてとらえた作品だ。
主人公のほかにも、日ごろあまりスポットライトが当たらないような立場の選手も丁寧に取り上げており、彼らがプロ卒業後に向かう多様な道の描写なども味がある。
「プロのアスリートとは?」をよりリアルに感じられるこれらの作品は、マンガとして面白いことはもちろん、その道を志す若者にとっては、本気でプロを目指すか否かの判断材料の1つにもなりえるのではないだろうか。
『グラゼニ』では、査定を基にした年俸交渉の裏側、『GIANT KILLING』では、選手の交代のカードを切る際の監督の心理戦の攻防や控え選手の心情、夢だけではなくリアリティのある繊細な心理描写はプロ選手の共感を呼び、多くの選手が巻末や帯にコメントを寄せている。
その背景には、子どもの頃に『ドカベン』や『キャプテン翼』など「熱血×トンデモ」の系譜にあるスポーツマンガで、選手になる夢を抱きプロになった選手たちが抱く、自分と同じようにマンガを通じて子どもたちにスポーツに興味を持ってもらいたいという願いもあるだろう。