“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
J1鳥栖と金明輝が掲げるクラブ方針。
18歳松岡大起が「希望」である理由。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/02/22 08:00
高校3年生だった昨季から出場機会を得ている松岡大起。今季はさらなる飛躍が期待されている。
成績を残し始めた鳥栖の下部組織。
育成型クラブ――よく耳にする言葉ではあるが、これを具現化するためには相当の時間と労力がかかる。明確な育成メソッドも然ることながら、当然スタッフの人件費、グラウンド、寮、食事などの環境整備など費用もかかる。
トップチームの主軸となる選手を育てる、または海外クラブなどへステップアップさせて移籍金を獲得する。このサイクルが生まれてこそ、真の育成型クラブと言える。まさしく今、その方針を打ち出しているのが現在の鳥栖である。
金監督やU-15を率いていた田中智宗監督(現・U-18監督)らを中心に強化を続けてきた育成組織は、近年、その成績も著しい。U-15チームは'17年に日本クラブユース選手権で初優勝を飾ると、高円宮杯JFA全日本U-15選手権でも初優勝。2冠を達成した。
さらに'18年1月には、オランダの名門・アヤックスと提携し、育成メソッドを共有。鳥栖にあったゲームモデルやプレーモデルなどのアプローチを加え、そこに両指導者がクラブを背負う意味などのメンタリティーを植え付け、戦う姿勢を植えつけていった。
'19年はU-15チームが日本クラブユース選手権を2年ぶりに制し、高円宮杯JFA全日本U-15選手権でも準優勝。さらにトップチームと直結するU-18チームは日本クラブユース選手権で初の全国ファイナリストとなった。また、プリンスリーグ九州を制して進んだプレーオフに勝利し、悲願のプレミアリーグ初昇格も手にしている。
危機的状況で就任した金監督。
そんな金監督が現在トップチームの指揮を執っており、今シーズンの幕開けとなる試合で2人の生え抜き選手を起用した。育成とトップが1本の柱でつながったのだ。ただ、まだそう言い切るのは時期尚早かもしれない。
そこには簡単ではない厳しい現状もある。そもそも金監督がトップの指揮を執るようになったのは、トップチームが危機的状況に陥ったからだ。
2012年にJ1に初昇格して以降、1度も降格することなく、一時は上位にも顔を出すほどJ1に定着していた。'18年途中にはフェルナンド・トーレスを、'19年にはルイス・カレーラス監督を招聘、さらにMFイサック・クエンカ(現・ベガルタ仙台)を獲得するなど、話題も集めた。しかし、蓋を開けてみるとチームは低迷。昨季は開幕10試合で1得点というJ1ワースト記録を更新するなど、苦しい戦いが続いた。
そんな逆風が吹き荒れる昨年5月、金監督は就任したのだった。
いきなり下部組織でやってきたサッカーができたわけではない。彼に託されたタスクはただ1つ。チームをJ2に落とさないことだ。それゆえ、徹底した守備をベースにした現実的なサッカーの選択しかなかったのだ。
そんな中で金監督はもちろん、チームも苦しみながら、なんとか15位と残留という最低ラインをクリアすることができた。だからこそ、迎えた2020年の初戦を見て、育成とトップが繋がる「第一段階」に入ったという印象を受けたのだ。