福西崇史の「考えるサッカー」BACK NUMBER
東京五輪世代、誰が爪痕を残した?
福西崇史「あえて挙げるなら……」
text by
福西崇史Takashi Fukunishi
photograph byJFA/AFLO
posted2020/01/16 20:00
ボランチの位置から前線に飛び出すなど、停滞した攻撃の中でも存在感を見せた田中碧。カタール戦は不運も重なり、退場処分となった。
点を取るための工夫が足りない。
<今大会、日本は3試合で3ゴール。得点数以上に目に映ったのはゴール前へと侵入していくようなチャンスメークの少なさだ。そこについて福西氏は、予備動作の少なさを指摘している。>
サウジアラビア戦、シリア戦で足りなかった気持ちの部分は出ていたと思います。ただ「戦う」といったメンタルは、プロの選手として戦うならどんな試合でもベースとしてあるべきもの。では点を取るために、前線のアタッカーたちはどのように動くのか。そういったところで具体的な工夫が足りないし、頭を働かせきれていなかった。
前線に人数がいても前線の流動性がなく、動き直さずとどまっている。すると縦パスを入れたとしても相手のマーカーが捕まえやすくなるんです。
カタール戦で見受けられたケースを説明しましょう。相手が5バックでかまえているため、ボランチがボールを持って入れようとしても、日本の1トップ2シャドー、そして高い位置を取った両サイドの選手全員にマークがついている。
ここで食野(亮太郎)や旗手(怜央)がボールを受けたとしても、相手のストッパーがついたままの状態になりますね。それでは全く相手の守備陣形は崩れていません。そこで少しでもボールを受ける前の予備動作で相手守備陣のライン、ブロックをずらしたかった。そういった工夫が明らかに少なかったんですね。
足りなかったアピールと意思疎通。
また優位な状況はお互いの連係によって生み出すもの。たとえばこの日、右サイドに入った相馬(勇紀)は1対1の勝負でずっと勝てていましたよね。それならば右シャドーに入っていた旗手は、ボールを持っていない場面でも「相手サイドバックを相馬から遠ざける」ような動きを見せてもよかったのではないか。
もし1トップの小川(航基)の前に走り込めば、相手サイドバックが旗手のマークを意識する可能性が生まれる。そうすればさらに相馬が使えるスペースが広がるし、斜めに走り込めば相馬がクロスを上げた際に小川、食野に加えて旗手もゴール前にポジションを取れますよね。
ドリブルで仕掛けていこうとした食野についても、相手がカバーに来ることを想定して、次に味方とワンツーでさらに抜け出るイメージがあったか。どちらもこれは攻める際の基本的なもの。“おとり”になるなど「相手を崩す動き」が全然見えなかった。
これは「オレはこういった動きをするから、こう動いてくれ」というコミュニケーションが少なかったからなのでは。個人の持ち味をアピールするとともに、自分の良さを周囲に伝える姿勢。今大会では足りなかったと言われても仕方ないでしょう。