セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
実録・無法ウルトラスに潜入(3)
ローマの街中で浴びた火炎瓶攻撃。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byTakashi Yuge
posted2020/01/07 11:00
スタジアム内で燃え盛る炎。セリエAのウルトラスの周辺には、何か危険な匂いが付きまとう。
トレビの泉と“おのぼりさん”。
電車はほぼ定刻通り、まだ薄暗い早朝6時半にローマ・テルミニ駅へ着いたが、試合は午後3時開始だから時間はたっぷりあった。僕らは少人数ごとに別れ、三々五々首都の街中へ散った。
行く当てもなかった僕らのグループは一路、観光名所であるスペイン階段を目指した。すると馴染みある別働隊の面々と出くわした。何だおまえらもか。顔を合わせて笑い合い、一旦別れた面子と今度はトレビの泉で再び鉢合わせした。
何てことはない、僕らは南イタリアの田舎からやってきた“おのぼりさん”だったのだ。
夜明けの世界遺産には、僕ら田舎のウルトラス十数人の姿しかなかった。僕らは真冬の澄んだ静寂に黙り込んだ。あんな光景は、LCCの爆発的流行や新興国の経済発達によって24時間世界中の観光客であふれる今のローマでは、もう見られないだろう。
オリンピコのアウェー席は檻だった。
国内最大のスタジアム「オリンピコ」に乗り込んだ我らアウェー応援団は、ラツィオのウルトラス連合が巣食うクルバ・ノルド(北側ゴール裏スタンド)から正反対にある一角に押し込まれる。高さ10mはある透明な強化アクリル板で隔絶された空間は“檻”だった。檻の中から吠える怒号と野次は激しさを増した。
当時、ラツィオの顔ぶれは圧巻だった。ベンチを束ねていたのは若き指揮官マンチーニ(現イタリア代表監督)で、グラウンドではFWシモーネ・インザーギ(現ラツィオ監督)やMFディエゴ・シメオネ(現A・マドリー監督)、DFシニシャ・ミハイロビッチ(現ボローニャ監督)、DFヤープ・スタム(前フェイエノールト監督)などが、中村俊輔に襲いかかってきた。
どんなビッグネームであっても、レッジーナとそのウルトラスにとって彼らは明確な“敵”だった。感情の赴くまま憎悪の限り、罵詈雑言を浴びせた。
試合は敵地で果敢に戦い抜いたレッジーナが1-0の金星をあげた。後半開始35秒、新FWエミリアーノ・ボナッツォーリ(現ベローナ女子部門監督)が決めたゴールが決勝点だった。
アウェー応援団は、試合終了後ホーム側ウルトラスとの衝突を避けるために寒い冬空の下でたっぷり1時間は待たされる。すでに日はとっぷりと暮れ暗闇が空を覆っていたが、オリンピコを出た僕たちは強豪相手の貴重な1勝にホクホク顔だった。一帯の交通規制はまだ解けておらず、封鎖された車道を歩くことができた。