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実録・無法ウルトラスに潜入(3)
ローマの街中で浴びた火炎瓶攻撃。 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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photograph byTakashi Yuge

posted2020/01/07 11:00

実録・無法ウルトラスに潜入(3)ローマの街中で浴びた火炎瓶攻撃。<Number Web> photograph by Takashi Yuge

スタジアム内で燃え盛る炎。セリエAのウルトラスの周辺には、何か危険な匂いが付きまとう。

空から降ってくる緑色のビール瓶。

 帰りの電車まで一杯やろうぜ、とテベレ川にかかる橋の1つを渡った。そこがラツィオ・ウルトラスの主戦場として悪名高い「ミルビオ橋」であることは知るはずもなかった。

 ヒュッと何かが空を切る音がした。

 暗闇で何も見えなかったが、すぐに近くでバーン! とガラス瓶の爆ぜた音がした。

 次に音がしたとき、空から降ってくる緑色のビール瓶を見た。飲み口にメラメラと炎が揺れ、地面に当たって砕けた後、飛び散った液体に引火して勢いよく燃え上がった。

 慌てて物陰に逃げ込もうとする足元で、また火炎瓶が炸裂した。今回は幸運にも引火はしなかったが、割れて尖ったガラス片が到底よけられないスピードでいくつも両脚の間をすりぬけていった。

 のほほんとした空気は一瞬で消し飛んだ。物陰を探しながら、投下後退散しようとする毛糸ニット帽の男に「このバカ野郎!」と毒づく。車道にはケミカルな燃焼臭が漂い、衝撃と熱変化で割れるガラス瓶の音が続いていた。

 命からがら、という体でテルミニ駅に着き、帰りの客車に滑り込んだ。往路よりさらに古いオンボロ急行の座席に身を沈めながら、普通の街角という一般社会の空間に火炎瓶を持ち込むラツィオ・ウルトラスの凶暴ぶりに戦慄した。

2019年に起きたボス射殺事件。

 イタリアのサッカーの試合で初めて組織的応援がされたのは、1932年のファシスト党によるものという説がある。ここでいう“組織的”とは、グループ内に上下の命令伝達系統とヒエラルキーを持つ、という意味だ。

 2019年8月7日の夕方、市民の憩いの場であるローマ水道橋公園で、ファブリツィオ・ピッシテッリという53歳の男が、こめかみに弾丸を撃ち込まれて即死した。

“ディアボリク”というクライムヒーローの通り名で呼ばれていた彼は、ラツィオ・ウルトラスの有力グループ「イッリドゥチビリ」のボスだった。麻薬密売で逮捕された前科があり、警察もその一件に端を発した怨恨による殺人と睨んで捜査しているが、ジョギングランナーに扮していたらしい殺人犯は、今も逮捕されていない。

【次ページ】 ローマダービーでの異常な圧力。

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