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「ああ、リバプールの一員になった」
南野拓実が移籍初戦で高ぶった瞬間。
posted2020/01/06 15:30
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph by
Getty Images
後半25分。南野拓実の交代がアナウンスされると、リバプールの本拠地アンフィールドの大観衆はスタンディングオベーションで背番号18をねぎらった。
その音の響きは、この日の出来に対する評価よりも、新天地でデビューを果たした24歳に「ようこそ。これから期待しているよ」という温かいメッセージが込められているように聞こえた。
南野はピッチサイドのクロップ監督から強く抱き締められ、何か声をかけられた。
1月5日のFA(イングランド協会)カップ3回戦。相手は同じリバプールに本拠地を置くエバートンで、両者の対決はマージーサイドダービーと呼ばれる伝統の一戦。試合開始の約1時間前、記者室に配布された先発メンバー表に“Takumi Minamino”の文字があった。
1日に正式加入したばかりだが、いきなりの先発デビュー。他のメンバーを見ると、2日のリーグ戦に先発したサラーやマネ、フィルミーノの3トップが外れていただけでなく、先発は9人も入れ替わっていた。
10代の若手も3人いる。プレミアリーグ特有の過密日程に加え、けが人が続出する苦しい状況の中、クロップ監督は控え中心の布陣をカップ戦に送り出した。
アピールに血気盛んな若者が多く。
冬の英国らしい、どんよりした雲が頭上を覆った午後4時。
南野のキックオフで試合が始まった。スタジアムのボルテージが高まる。南野のポジションは3トップの中央。序盤から積極的に動き回って何度かフリーになるが、なかなかパスが回ってこない。
定位置争いでライバルより優位に立とうとする血気盛んな若手が多い上に、加入したばかりの南野のプレーがよく知られていないことも理由にあっただろう。
前半34分にはオリジの左クロスに反応してゴール前で飛び上がり、頭を合わせようとしたが惜しくも届かない。
結局、南野がプレーした70分間で一瞬、胸が躍った場面はここだけだった。