セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
実録・無法ウルトラスに潜入(3)
ローマの街中で浴びた火炎瓶攻撃。
posted2020/01/07 11:00
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Takashi Yuge
そこで新春特別企画として、潜入取材した弓削高志さんが体験した生々しい実態を、全5回にわたってお送りする。第3回はローマ遠征で受けた“洗礼”について――。
夜のレッジョ・カラブリア中央駅は、約1000人のウルトラスとそれを取り囲む警官隊でごった返していた。
2003年1月25日土曜日の時計の針は22時を回っている。もうすぐローマ行き夜行列車「インターシティ・ノッテ796号」の発車時刻だ。
「立ち止まるな! 早く乗れ!」
駅周辺とホームには気色ばった警官たちの怒号と彼らのけたたましい警笛が響いている。僕は、レッジーナのウルトラス約1000人と一緒に、この“特別護送列車”に乗り込んだ。翌日のセリエA・第18節ラツィオ戦応援のためのアウェーゲーム遠征だった。700km先にあるローマまで、約8時間かけて運行される特別列車に一般乗客はいない。
今なお続くウルトラス同士の抗争。
ウルトラス同士による暴力事件や抗争による衝突は、今なお続く社会問題だ。アウェーゲームのたびに国内を長距離移動する1000人単位のウルトラス(暴徒)が、もし別々の場所で事件を起こしたら、警察機構は物理的に対応しきれない。
だから、レッジーナのような地方クラブにとっては大一番である大都市強豪チームとのカード前には、地元警察と自治体、イタリア国鉄、そしてクラブとウルトラス側が協議し、移動の監視と警備の集中化を狙った“特別護送列車”を仕立てるのが慣わしだった。
当時はLCCもなかったし、ローマまでの飛行機代を捻出できる層はそもそもウルトラスになんかならない。
往復16時間の電車料金はしめて66ユーロ、当時のレートで8千円もしなかったが、南イタリアの20代にはそれすら惜しまれる額だった。警官の目を盗んでチケットを持たずに乗り込んだ輩が少なからずいて、彼らは長旅の間、夜行といっても寝台車両などない8両編成の間をせわしなく逃げ回っていた。
僕は6人掛けのコンパートメントに連れと潜り込んだ。旅のお供の揚げピザをビールで流し込み、固いシートで浅い眠りにつく。消灯時刻を過ぎても日付をまたいでも、通路は聞き覚えのある声がいつまでも騒々しく飛び交っていた。悪い大人の遠足だな。