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ブスケッツの技は高級万年筆のよう。
卓越したパスで描くバルサらしい色。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2019/12/26 18:00
10年前に比べると、フィットネス的には厳しくなっている。それでもブスケッツの判断力は今もバルサ全体を安定させる効力を持つ。
バルサの香りを残すブスケッツ。
バルサをバルサらしく踏み止まらせる者がいるとすれば、現状でそれはセルヒオ・ブスケッツしかいないと思う。
バルサB時代のジョゼップ・グアルディオラ監督に見出されたピボーテ(アンカー)は、シャビもアンドレス・イニエスタも去ったチームにあって、バルサイズムを紡ぎ出せる唯一無二の存在だ。
運動量も走力も潤沢とは言えず、長身の割には身体的な強さを備えているわけでもない。現代サッカーの基準に照らし合わせれば、その点は水準以下なのかもしれない。「バルサ限定のプレーヤー」との声にも頷ける部分はあるし、実際、トップチームに昇格してからこのかた、他リーグへの移籍の噂もまったくと言っていいほど聞こえてこなかった。
それでも、ブスケッツのプレーは、サッカーが本来、不確実性の高いスポーツであり、導き出される答えは決してひとつではないのだと、改めて思い起こさせてくれる。
たしかに、加齢とともにスタミナが低下し、かつての彼からは考えられないようなミスも増えた。今シーズンのラ・リーガ開幕戦では屈辱のスタメン落ち。逸材フレンキー・デヨングの加入もあって、その地位は不動ではなくなったとの見方もある。
けれど、そのデヨングにしても、インテリオール(インサイドハーフ)として崩しの局面では質の高い貢献を見せているとはいえ、バルサのピボーテとして、ブスケッツと同じような振る舞いはまだできない。
ラキティッチもアンカーでは……。
もし、クラシコのピッチにブスケッツがいたら──。もう少し展開は違っていたに違いない。前からの圧力を、みずからが空気弁となって上手く外へと逃し、チームを窒息状態から救っていたはずだ。
発熱で試合直前に欠場が決まったブスケッツに代わり、クラシコでピボーテを務めたイバン・ラキティッチも、本来はもう1列前で輝く選手だ。マドリーのプレッシャーに晒され続けたクロアチア人MFを、現地『スポルト』紙はこう評価している。
「圧倒される。ブスケッツの役割を果たすのに難しさを感じていたようで、チームに安心感を与えることができなかった」