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ブスケッツの技は高級万年筆のよう。
卓越したパスで描くバルサらしい色。
posted2019/12/26 18:00
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph by
Getty Images
空前の万年筆ブームだそうだ。
一昔前まで万年筆と言えば高級品で、どこか大人のステータスシンボルのようなイメージがあった。あれは、大学の合格祝いだったか。親戚の叔父さんから贈ってもらったはいいけれど、学生にはちょっと重厚過ぎて、ずっと引き出しの奥に眠らせたままにしてあった1本を思い出す。
それが、今ではすっかりカジュアルになって、1000円台のリーズナブルな価格のものが数多く出回っている。そして一度手にすると、その書き心地の良さに病みつきになる人が続出しているそうだ。
ブームを後押しするのがインクだ。以前は黒やブルーくらいだったが、最近はカラーバリエーションも豊富になって、さまざまな調合で自分だけの一色を生み出すのが流行りらしい。その日の気分に合わせて次々と新しいインクに替えていくユーザーを、「“インク沼”にハマる」と言うそうだ。
SNS全盛のこの時代だからこそ、人はそうした手書きの温もりを求めるのかもしれない。かつて万年筆のデメリットとされていたインクを詰め替える面倒な作業も、心地良い“手間暇感”として受け入れているのだろう。
紙離れが進み、本や雑誌が売れなくなって久しいが、元雑誌編集者としては、いつか人々がふたたび紙の温もりを、ページをめくり、本棚に並べて背表紙を眺める喜びを求める時代がやってくるのではないかと期待してしまう。
懐古主義に浸るつもりはないけれど。
サッカーは、どうだろう。
圧縮されたコンパクトなスペースの中で幅を利かせているのはフィジカルの強さであり、縦への推進力や圧倒的なスピードがなければ、現代サッカーで生き残っていくのは難しい。
もちろん感じ方は人それぞれだし、懐古主義に浸るつもりもないけれど、今のサッカーを見ていると、「唯一絶対の答え」を見つけなくてはならないという強迫観念に駆られているようで、エンターテインメントとしての純粋な楽しさが減退しているように思うのだ。