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ブスケッツの技は高級万年筆のよう。
卓越したパスで描くバルサらしい色。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2019/12/26 18:00
10年前に比べると、フィットネス的には厳しくなっている。それでもブスケッツの判断力は今もバルサ全体を安定させる効力を持つ。
ホークアイから導くパスの推進力。
上空からピッチを俯瞰する“ホークアイ”の持ち主であるブスケッツは、今、どこにポジションを取ればベストかを選択する瞬時の判断力が、やはり別次元だ。
クラシコから3日後のアラベス戦でスタメンに復帰すると、相手のプレッシャーにさらされない絶妙な位置に立ちながら肉弾戦を回避。時折CBの間に落ちて最終ラインからゲームを組み立て、攻撃の局面では裏のスペースに飛び込むチームメイトを見逃さず、面白いようにスルーパスを通した。
ボールを持ち運ぶ力はデヨングに劣るが、その分、パスで推進力をもたらすのが彼のやり方だ。
ラキティッチもメッシを使う術は心得ている。しかし、メッシの動きを利用して、他の選手まで有効活用できるのは、現状ではブスケッツだけだろう。
シャビが唯一、生まれ変わりたい男。
かつてシャビは言った。
「メッシは間違いなくベストプレーヤーだし、イニエスタみたいなドリブルができたらいいなと思ったこともある。けれど、もし生まれ変わったらなりたいと思えるフットボーラーは、ブスケッツだけだ」
フィジカルと効率性に支配された現代サッカーにおいて、ブスケッツはアナログでノスタルジックな香りを残す数少ないプレーヤーだ。それこそ万年筆のように、何種類ものインクを配合しながら、彼にしか出せない色で、彼にしか描けない線をピッチに映し出す。
シャビは35歳、イニエスタは34歳でバルサを離れた。ブスケッツも32歳になる。
「もし野心が薄れたり、身体的に厳しいと感じたら、もうバルサの選手ではいられない。その時はここを去ることになるだろう」
そんなコメントも残しているブスケッツだが、少なくともデヨングがその後継者に相応しいと誰もが認める存在になるまでは、まだまだ彼の力が必要だ。
精緻な作りゆえ、手入れが大変な万年筆。その最良のメンテナンス方法は「毎日使い続けること」だという。ブスケッツも変わらずピッチに立ち続ける限り、その輝きが色褪せることはないはずだ。