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ブスケッツの技は高級万年筆のよう。
卓越したパスで描くバルサらしい色。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2019/12/26 18:00
10年前に比べると、フィットネス的には厳しくなっている。それでもブスケッツの判断力は今もバルサ全体を安定させる効力を持つ。
クラシコは速さ、効率性の一戦だった。
互いに相手の喉元にナイフを突きつけながら、もう片方の手では用意しておいたいくつかの戦術という名の武器をまさぐっている。高度な戦術の応酬は、それはそれで見応えがあるのかもしれないし、スペースが限られるからこそ、より洗練されたテクニックが際立つ側面もたしかにあるだろう。
けれどそこに、かつてのような手触り感や手間暇感はない。優先されるのは強さであり、速さであり、効率性だ。
2019年12月18日に行なわれたクラシコは、そんな現代サッカーの潮流をトレースするような一戦だった。
実に17年ぶりのスコアレスドロー決着となったが、印象的にはホームのバルセロナの判定負けだ。前から圧力をかけてきたレアル・マドリーのフィジカルパワーに汲々となってビルドアップもままならず、相手ゴール前に迫ることすらできなかった。とくに前半はシュート本数2対11と圧倒されている。
いわば手間暇感を大切にするチームの代表格とも言えたバルサが、マドリーの強さと速さにたじたじとなった格好だ。
バルサですら手間暇より「縦」重視。
もっとも、そのバルサにしても近年は、ボールを握って手間暇かけて崩す伝統のスタイルから、縦へのスピード、効率性を重視するサッカーにシフトしつつある。GKマルク・アンドレ・テア・シュテゲンの正確なロングフィードから、リオネル・メッシやアントワン・グリーズマンが一発で仕留めるシーンも頻繁に目にするようになった。
今回のクラシコでペースを取り戻したのが、パワーと推進力に優れたアルトゥーロ・ビダルを投入した後半途中からだったという事実も、どこか象徴的だろう。
首位攻防戦となったクラシコをなんとかドローで乗り切り、さらに2019年の最終戦、ラ・リーガ18節のアラベス戦にも勝利。単独首位で新しい年を迎えるバルサだが、かつてのようにボールを支配し、相手を跪かせるような強さはもはや感じられない。
このままバルサが時代の波にすっかり飲み込まれたとしたら、サッカーからエンターテインメントが完全に消滅する。
そんな危惧さえ抱いてしまうと言えば、なにを大袈裟なと笑われるだろうか。