JリーグPRESSBACK NUMBER
ベルマーレ残留の今、騒動を考える。
美談でなくJリーグが先に進むため。
text by
川端康生Yasuo Kawabata
photograph byGetty Images
posted2019/12/25 08:00
参入プレーオフの末にJ1残留を果たした湘南ベルマーレ。所属する選手には能力があるからこそ、2020年の逆襲に期待したい。
何らかの手立てが講じられれば。
残念ながら、読んだ人はご存じの通り、報告書には通報以後に起きた事例が少なからず記載されている。「全治8カ月の怪我」にいたっては「曹氏の姿勢が選手の怪我につながった可能性があると認められる事象」として挙げている。
もしも、何らかの手立てを講じて、「曹氏の姿勢」を是正していれば、この選手は大怪我を負わずにすんだということである。
看過できない重大事案だと捉えていたなら、湘南の意向を聞いて日程調整をしていないで、もっと早くヒアリング調査を行うなり、曹監督の指導方法の是正を勧告するなりしていれば、この選手は大怪我を追わずにすんだということである。
結果的にパワハラ認定できる材料が増えたことになるが、もちろんそれは本意ではないだろう(通報時点で材料は揃っていたわけだから、そんな必要もない)。
1カ月もの時間があったのだから、新たな被害者を増やさないことに取り組んでほしかったと感じた。言うまでもなく、このとき湘南はまだパワハラを認識していないのだから、それができたのはJリーグだけだった。
Jリーグ側の対処はどうだったか。
またこの一件はスポーツ紙のスクープによって世間の知るところとなった。通報から約1カ月後、8月11日深夜(日付が変わった後)のことだった。
これを境に湘南が露骨に失速したことは冒頭で述べた通りである。深夜にネット配信される数時間前に磐田から挙げた勝利を最後に、次戦から10試合勝利なし。その後もわずか1勝しか挙げられずシーズンを終えることになった(昇格プレーオフも引き分けだから4カ月間で1回しか勝てなかったことになる)。
ネットでは「自業自得」や「身から出た錆」という厳しい投稿も目にした。言葉はともかく、この“失速”に関して湘南を擁護する気にはなれないのは僕も同じだ。窮地に追い込まれたとき、チームはあっという間に瓦解した。誇っていたはずの「湘南スタイル」も、喧伝していた「一体感」も、あまりに脆かった。
その上で指摘したいのは、すでに報道によって明るみに出てしまった以上、Jリーグ(というより委任した弁護士チーム)はもう少しスピードアップして対処できなかったかということである。
これは湘南のために言っているわけではない。シーズン中だったのだ。湘南のみならず対戦相手にも、つまりリーグ全体の結果にも影響を与える事態だった。