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早稲田大→慶応大ラグビー部コーチ。
なぜ三井大祐は異例の道を歩んだか。
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byMasashi Oda
posted2019/12/20 15:00
早稲田ラグビーで育ち、慶応ラグビーをコーチングする三井大祐。彼のようなキャリアを歩む人は珍しいだろう。
22年ぶりに大学選手権を逃す屈辱。
迎えた11月23日、早稲田に7点及ばなかった。
「少しずつの積み重ねの差。それは日々の練習の差です。たられば、はありますが、それでも負けてるので実力差はあったということ。何かが足りなかったということです」
慶応は今季、22年ぶりに大学選手権出場を逃すという屈辱を味わった。根幹の哲学が薄れていたという。
「なんでこのチームでやるのか、このチームでなきゃいけないのか、なんのために勝ちたいのか、というところが慶応の方が早稲田より劣っていたと思います」
慶応ラグビー部にいる理由とは――。アイデンティティを持つ選手がいないわけではないが、その割合が早稲田の方が多い。何浪しても早稲田ラグビー部に入りたい。そういう人間ほど粘り強い。そこが早稲田の良さ。一方、慶応は内部進学者が多く、競争意識の差があるかもしれない。指導者にその歯がゆさはあるだろう。
「今年は、早稲田のその部分の文化が上回っていた。学生は時間も拘束されている。ほんとの目的を見出さないと、ただ犠牲にしてるだけになる。ラグビーに限らず人生の何においても共通すること。その価値を気づかせること、その意味を一つ一つ伝えていくことがコーチの仕事。技術以外に大義と言ったら大袈裟ですが、一番、大事な部分ですね」
魂のラグビーは薄れていないか。
魂のラグビー。それが慶応の代名詞だった。魂のこもったタックルを突き刺してきた。
「慶応が本来持っている根本。失ってはいけないものが薄れてしまった。ラグビーのスキルは勉強できたし上手くなったんですが、相手より低く速くとか、すぐに反応して起きるとか、慶応がどこのチームよりも勝っていた、勝利の最低条件が足りなかった」
学生は大人扱いされたいが、大人になり切れていない部分もある。好きにしていいよというと、迷いが生じることもある。一方で指示ずるだけでは窮屈で面白くない。首脳陣が主導権を持って教えるのか、学生に判断をゆだねるのかバランスも学んだという。
明治戦完敗後、早慶戦で7点差まで詰めた。そしてこのチームにとって最後となる公式戦、帝京戦では9年ぶりの勝利を飾った。
「戦術戦略は明治戦から手を付けてない。慶応で大事なものは何か。これで勝ちたいと思ってるものは何か。みんなが出した答えが一緒だった。それをやるしかない、やり切りましょうと。相手より早く立つ、ということ。ライズ(rise)しようよと」