球体とリズムBACK NUMBER
マンCというよりリバプールみたい。
「楽しすぎる」マリノスが得た栄冠。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2019/12/09 11:50
鮮やかな攻守の切り替えとフィニッシュまでのスピーディーさ。FC東京相手の3-0快勝は優勝に値する美しさだった。
リバプールに通じる強烈なプレス。
優勝の立役者のひとり、CBチアゴは「前の選手がプレスをかけてくれることによって、後ろがそれに合わせていける。疲れ知らずに走り続ける仲間に感謝したい」と掠れた声を裏返しながら朗らかに話した。
最終ラインの司令塔兼要塞、日本代表CB畠中も「全員が攻守に戦えていた。距離感もよくなって、取られてもすぐに取り返すことができて」と全体の貢献を口にする。
実際、最近のマリノスは前線の獰猛なチェイスを合図に、兄弟クラブのマンチェスター・シティというよりもリバプールにも通じる強烈なプレスで相手を追い回す。
ポゼッション志向のチームは時に単調なボール回しに終始してしまいがちだが、現在のマリノスにはダイナミズムがある。それがエンターテイメントとコンペティションの高度な両立につながっている。「楽しすぎて、試合中に笑ってしまうこともあります」と、シーズン後半戦に攻撃の核となったエリキはニコニコしながら打ち明けた。
批判に屈することはなかった。
「成功の秘訣はない。あるものは、ハードワークと信念、チームスピリットだけだ」とポステコグルー監督は言う。
フィジカル重視の母国のフットボールに革命を起こした指揮官は、日本でも同じことを成し遂げた。守備の伝統を持つクラブは彼の指導によって生まれ変わり、宿願のリーグタイトルを手に入れたのだ。それは、クラブはもちろん、日本サッカー全体にとってもポジティブなことだと思う。
「もちろん、困難に直面した時期はあった」とヘッドコーチのピーター・クラモフスキーは最初の祝宴の後にそっと教えてくれた。特に浮き沈みの激しかった昨季は乱暴な物言いにも晒された。
けれど母国からずっと指揮官に仕え、マリノスでも練習を担当する彼は、「でも成功への道に障害はあるものだ。我々には信念がある。成功体験も、それを具現化するメソッドも。だから批判に屈することはなかった」と満ち足りた表情で続けた。
かねてより名門の重みをたびたび口にしてきた主将の喜田拓也は、優勝後のインタビューで押し寄せる感情を堪えきれず、涙を流した。リーグMVPの仲川輝人は試合終了後のピッチでクールに夜空を指差し、見たかった「良い景色」を眺めていたのだろう。