バスケットボールPRESSBACK NUMBER
決してあきらめない──安齋HCが
語るブレックスの歴史、使命、責任。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byB.LEAGUE
posted2019/11/29 11:40
2017-18シーズンの途中からヘッドコーチに昇格した安齋。昨季は49勝11敗の東地区2位、チャンピオンシップセミファイナル進出へと導いた。
ファンとの関係を象徴する出来事。
そういえば、ブレックスのクラブとファンの関係を象徴する出来事があった。
Bリーグ初年度のファイナルを制して行われたシャンパンファイトのあとのこと。夕方になり、すっかり冷え込んでいた5月の東京、代々木第一体育館の外に設けられた特設テントでシャンパンを浴びた選手たちの身体も冷え切っていた。
だから、セレモニーが終わると、頭からタオルをかぶった田臥がテントを真っ先に飛び出した。素早くロッカールームに戻り、シャワーを浴びるためだった。ファイナルのあとでも、体調管理はおこたらない。
このときのテントには出口が2カ所あった。田臥が出たのは体育館に近い方の出口。もう一方の出口は体育館の敷地と道路を隔てる柵のすぐ前にあった。そして、その柵の外にはシャンパンファイトの歓声だけでも聞きたいとファンが大挙していた。
田臥からはファンが見えなかったが……。
ただ、田臥の通った出口からはそれが見えないつくりになっていた。だから、テントを出た田臥は体育館へ真っ先に向かっていった。すると、その様子をみかけた広報の小野順一が猛スピードで走り、田臥を呼び止めた。
「あっちにファンのみなさんが!」
その言葉で初めて状況を理解した田臥は、柵のところまで向かい、ファンに頭を下げた。
「みなさんのおかげで優勝できました! 応援ありがとうございました。また宇都宮のパレードで会いましょう!」
それぞれのクラブの方針はある。でも、小野と同じような行動をとれるスタッフがどれくらいいるだろうか。スター選手に忖度するケースは意外と多い。
ただ、どんな選手であろうとも、ファンとともに闘うことを命題としたクラブの理念に勝ることはない。それを広報はわかっているから、全力で田臥を引き止めた(もちろん、田臥が最初からファンの存在に気づいていたら、挨拶にいったはずだが)。