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アイスW杯で「サラリーマン世界一」。
異色クライマー・門田ギハードとは?
text by
森山憲一Kenichi Moriyama
photograph byKenichi Moriyama
posted2019/10/20 08:00
アイスクライミングW杯で決勝に進出した門田ギハード。練習施設は牛舎を改造した“アイス専用”道場だ
手にはピッケルを持ち、靴には爪。
スポーツクライミングとの最大の違いは、道具を使うこと。手にはアイスアックスと呼ばれる競技用のピッケルを持ち、靴にはクランポンという金属の爪が付けられている。これらの道具を駆使する独特の技術が要求されるのがアイスクライミングだ。
言葉で説明するよりも、動画を見ていただくのが手っ取り早い(https://youtu.be/AFWsR0WcJIs?t=1620)。
登っているのは、男子優勝したスイスのヤニック・グラトハルト。ご覧のとおり、「氷登り」という言葉から想像されるイメージとはずいぶん違う。
現代の先鋭化したアイスクライミング競技は、氷混じりの岩壁部分を登るために発展した「ドライツーリング」というテクニックが技術的核心となっており、大会のルートも、氷はない「ドライセクション」を主体に設定される。
スポーツクライミングよりも動きが派手でアクロバティックになるのが特徴で、猛烈な持久力も必要になる。数ミリの凹みにアイスアックスを引っかけて体を支える繊細なテクニックと、フィジカルのパワーが同時に要求されるのがアイスクライミング競技だ。
2度目の登山で国内最難関へ。
この競技での強豪国はロシアや韓国。そのなかに昨シーズン、クライミング関係者でも知る人は少なかった日本人が突然食い込んできた。それが門田である。
現在30歳の門田は、アイスクライミング競技を始めてまだ4年。趣味としてのクライミングを始めてからも6年にしかならない。アイスクライミングは競技人口が少ないスポーツとはいえ、異例のスピードで現在地まで駆け上がってきた。
門田の経歴は、クライミングを始めたきっかけからしてまず異色だ。
最初のきっかけは登山。友人に誘われてたまたま出かけた登山で、日本には穂高岳という難しい山があることを知った門田は、どうしてもそこが登りたくなり、2度目の登山で穂高岳に登りに行った。
ところが、このとき門田が歩いたのは、ジャンダルムと呼ばれるピークを登るもので、国内の登山では最難関とされるコース。常識的に考えて、2度目の登山で行くところではない。当然ながら、岩場の続くこのコースで門田は苦戦。クライミング技術の必要性を痛感する。