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アイスW杯で「サラリーマン世界一」。
異色クライマー・門田ギハードとは?
text by
森山憲一Kenichi Moriyama
photograph byKenichi Moriyama
posted2019/10/20 08:00
アイスクライミングW杯で決勝に進出した門田ギハード。練習施設は牛舎を改造した“アイス専用”道場だ
ふだんは会社員、実は花形部署。
病的といえるほどの打ち込みように目を奪われるが、ふだんの門田は、カメラメーカーに勤めるサラリーマンであることを忘れてはいけない。
門田が担当している業務は、プロ用ビデオカメラの商品企画。どんなカメラを開発するかを決める仕事であり、開発工程の最上流部にあたる。カメラメーカーを志望する人ならだれもが担当したい、いわば花形部署だ。
門田は、世界の報道機関や映画制作者とコミュニケーションをとりながら、求められるカメラの形を日々研究している。その仕事を続けながら、ワールドカップでも結果を出し続けてきた。
選手生活について会社からの特別扱いは一切ない。オリンピック種目になったスポーツクライミングなら違ったのかもしれないが、アイスクライミングはまだまだマイナー競技。ワールドカップ・ファイナリストといえど、会社から見れば他と同じ一社員にすぎないのだ。
「海外の大会に出るときはもちろん全部自費ですし、有給休暇の残りを緻密に計算しながらやってます。ワールドカップにフル参戦した年は、貯金と有給が全部なくなりました(笑)」
プライベートはすべてクライミング。
門田の生活はこんなサイクルになっている。
6時 起床
8時30分~17時 会社で仕事
19時~23時 クライミングジムでトレーニング
24時~25時 自宅で筋トレ
25時30分 就寝
自宅から会社までは1時間半ほどかかるが、トレーニングできる広さの家を求めると、現在の場所になってしまったという。月曜日と金曜日だけはトレーニングを休み、週末の土日は、群馬県高崎市にある牛舎を改造した専用施設にこもってトレーニングに励む。
幸い職場の理解には恵まれており、「アイツはクライミングやってるから」と、終業後の飲み会に参加せずとも文句はいわれず、残業も基本的にない。自分の仕事さえきっちり終わらせていれば、プライベートの時間はすべてクライミングに費やすことができる。
目下の悩みは睡眠時間の確保。体の回復のためにもっと寝たいという。ならば、トレーニングの時間を少し減らすか、もっと職場に近い場所に引っ越すかすればよいと思うのだが、そのつもりはないようだ。