プロ野球亭日乗BACK NUMBER
巨人圧勝の流れを作った意表の重盗。
原辰徳監督、決断の根拠は「理」。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKyodo News
posted2019/10/11 12:00
巨人対阪神CS第2戦、5回巨人1死一、二塁、打者丸のとき、重盗を仕掛ける。三盗の亀井も楽にセーフだった。
そこに勝負をかける「理」があった。
マウンドの島本浩也投手は足の上げ幅が大きくクイックが遅い。重盗では二塁走者がスタートを切り、一瞬、遅れて一塁走者も走るが、左投手の島本はその分、盗塁に気づくのも遅くなる。
何より打席が3番・丸だったことで、阪神バッテリー、ベンチは巨人が動くことに全くの無警戒だった。
そこに勝負をかける「理」があった。
しかも阪神ベンチが意表を突かれて重盗を決められたのは、これが今季、初めてではなかった。
監督13シーズン目とルーキーの視野の差。
開幕直後の4月4日、このカードの3回戦となる試合の1回だった。
岡本の2ランで先制してなお2死一、三塁で、打席の田中俊太内野手のカウント1ボール2ストライクから一塁走者のゲレーロがスタート、坂本誠志郎捕手の二塁送球のモーションを見て亀井が本塁に突入した。
慌てて二塁ベース手前で坂本の送球をカットした北條史也内野手の本塁送球がバックネットのフェンスを直撃する大悪投となって、まんまと巨人は追加点を奪っている。
このときも直前のゲレーロの当たりを右翼手の糸井嘉男外野手がグラブに当てながら落球するミス(記録は安打)があり、阪神ベンチが浮き足立ったスキを見逃さなかった。
ギャンブルではなく計算され尽くした重盗を1シーズンで2度も決められてしまった。
そのダメージは阪神ベンチにとっては想像以上に大きい。
大人と子供、といったら言い過ぎかもしれない。しかし3度の監督で計13シーズン目を迎えた老練な指揮官とルーキー監督の間には、それぐらいの視野の差があるのかもしれない。それをこれでもかと見せつけたのが、この2度の重盗の意味だった。