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巨人圧勝の流れを作った意表の重盗。
原辰徳監督、決断の根拠は「理」。
posted2019/10/11 12:00
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Kyodo News
監督・原辰徳の原点には盗塁がある。
「ベンチでそのサインが出た瞬間にゾクゾクっと背中に走るものを感じた」
そう巨人・原辰徳監督が振り返ったのは、今から45年前、原がまだ東海大相模高校の1年生だった1974年の夏の甲子園大会でのことだった。
父子鷹と騒がれた原貢監督とともに臨んだ初戦の土浦日大戦。1点をリードされて9回2死と土壇場まで追い詰められたが、そこから9番・鈴木富雄が左前安打で出塁すると、続く1番・杉山繁俊の打席で貢監督は鈴木に二盗のサインを出した。
「鈴木さんが塁に出たとき、どうするんだ? とベンチで監督を見た。するとすぐに盗塁のサインが出ました。僕はその瞬間にゾクゾクっとしましたね。アウトになったらそこですべてがおしまいですから。でも、オヤジさんは平然とサインを出していた。あのときの姿こそ、僕の監督としての原点なんです」
鈴木の二盗成功から追いついた東海大相模は、延長16回の死闘を制した。
「理」とは成功への根拠と決断する勇気。
「もし盗塁がアウトになっていたら」
原監督は言う。
「監督・原貢はそれこそ袋叩きだったはずです。でも、そんなことはまったく気にしていない。『批判するなら批判せい! オレは間違ったことは何1つしてやいない!!』そういう信念を持っていたからでしょう。指導者としてそういう強さというのが、オヤジさんの1つの特長だったと思います」
それではなぜ原貢は、それほどまでに強さを持てたのか?
「理由はそこには必ず“理”があったからだと思います。その理とは成功への根拠と決断する勇気です」