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あの独立自尊の大迫傑が振り返った。
MGC41.8km地点、衝撃の場面。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byYoichiro Funakoshi/JMPA
posted2019/09/17 20:00
大迫傑が前ではなく、「自分を追うランナー」の位置を確かめている。彼の性格を考えればどれほど追い詰められていたかがわかる。
設楽の飛び出しが大迫の焦りを生んだ。
今回のMGCで、「設楽エフェクト」の影響をもっとも受けたのは、設楽と共に横綱とみなされていた大迫傑ではないか。
3位で内定とはならなかった大迫。レース直後の囲み取材では、
「完全に力負けです。最後には脚が残っていませんでした」
と潔く負けを認めていたが、余力が残っていない要因までは詳しくは分からなかった。
しかしレースの翌々日、日本テレビの『スッキリ』に出演し、大迫はレースを次のように振り返った。
「レース前にコーチとも相談して、当日の気象条件を考えると、ひとりで逃げ切るのはむずかしいだろうと判断しました。飛び出したのがひとりだったら、落ちてくる可能性が高いので、追いかけてリスクを取るよりも、見逃そうという選択でした。ただし、実際に設楽選手が飛び出して、自分の中で焦りというのがなかったとは言えないです」
それはレースの進め方に表れていたという。
「いつもだったら集団の後方で全体を見渡す位置にいるんですが、集団の前の方でレースを進めてしまったんです。そのため、それぞれの選手のスパートに対応してしまったので、脚を使ってしまいました」
いつも、大迫は泰然自若としており、テレビの中継でも集団の後方に待機しているため、その姿を捉えづらい。ところがMGCでは大迫の姿がよく映っていたのには、こういう理由があったのだ。
中村、服部は終始冷静だった。
一方で、中村匠吾、服部勇馬のふたりは、集団の中で終始冷静だったという。
「彼らふたりはすごく集中していました。僕よりもレースが見えてたのかな、と思います」
横綱としては、すべての状況に対応しなければならない。脚を使っていくうち、大迫は仕掛けどころを失っていく。