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あの独立自尊の大迫傑が振り返った。
MGC41.8km地点、衝撃の場面。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byYoichiro Funakoshi/JMPA
posted2019/09/17 20:00
大迫傑が前ではなく、「自分を追うランナー」の位置を確かめている。彼の性格を考えればどれほど追い詰められていたかがわかる。
独立自尊の大迫が、後ろを振り返った。
「残り2キロになって、あと2キロというよりも、『まだ2キロ』という感じでした」
実感がこもっている。勝ち切るプランは、スプリントに自信を持っていることもあり、「ラスト500、600mくらいでスパートをかければいいかな」と作戦を立てていたという。
しかし、新国立競技場が真正面に見えるラストの上り坂、中村匠吾は次のブースターを用意していた。大迫はついに対応できずに置き去りにされる。しかもその直後、41.8km地点で大迫は後ろを振り返っている。
たまたま、新国立競技場の前で大迫が後ろを振り返ったシーンを、知人が写真に収めていた。
余裕がない。苦しそうに見える。
独立自尊の大迫が、後ろを振り返ったところに私は衝撃を受けた。映像で何度も確認すると、3位の服部を確認したのではなく、4位の大塚祥平の位置を確認しているのである。
ナイーブな大迫を初めて見た。
2位までに入らなければならないという、プレッシャー。
2位に入った服部勇馬は、「大迫さんが後ろを振り返ったので、これは行けるんじゃないかと思いました」と元気づけられたと明かした。
大迫は、服部に勇気を与えてしまっていた。
ラストの外苑いちょう並木に入ったところ、そしてフィニッシュライン直前でも、もう一度後ろを振り返っている。
少なくとも、私がナイーブな大迫を見たのは初めてだった。