スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
リレーは常にリスクと背中合わせ。
4×100の失格と、日本の“匠の技”。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2019/05/13 17:00
リレーでのバトントラブルは確率的に避けられないが、日本のスキルが上位であることは今も変わらないだろう。
4×100mリレーの選手たちは好調だった。
それでも報道では、やはり男子4×100mリレーに関するものが多かった。
たしかに、決勝に残っていればメダルどころか、ひょっとしたら「金」もあったのではないか――と思われるだけに残念ではある。
ただし、選手たちの走りの内容は高く評価されていいだろう。
必ずしも完調とはいえない1走・多田修平がいいスタートを見せ(この走りで浮上のきっかけをつかんで欲しい)、エース区間の2走・山縣亮太は世界トップクラスの走りを披露。山縣から3走・小池祐貴へのバトンパスは、惚れ惚れするような流麗なエクスチェンジだった。
ところが「好事魔多し」とはよく言ったもので、昨年のアジア大会200m王者の小池が見事なコーナリングを見せたあと、同学年であるアンカー桐生祥秀のところでミスが発生してしまう。
失格についての分析がいろいろなされているが、今回の世界リレーを見て感じたのは、リレーのバトンパスでのアクシデント、ミスは多発するものだということだ。
桐生のアンカー起用がリスクを高めた?
リスクが低減すると思われる4×200mリレーでさえ、女子のジャマイカチームは1走から2走の間でミスを犯し、3位。アメリカは失格。ほとんどミスが起こらないマイルリレーでも、アメリカ男子は失格になっている。
世界大会のリレーメンバーは、普段は一緒に練習しているわけではないから、バトンパスの練習時間は限られ、リスクがつきものである。そこで何が出来るかと言えば、大会直前からリスクを最小限に抑えるマネージメントを指導陣が施すしかない。
今回、日本のリスクが増えたとすれば、これまで多くの大会では3走を走り、右手でバトンを受けることが多かった桐生が、アンカーにポジション替えになったことで、左手でバトンを受けなければならなくなったことだ。
自分でやってみると分かるのだが、利き手でない方の手で、アンダーハンドのパスを受けるのは、なかなか難しい。体の使い方も違うので、慣れが必要なのだ。
やはり、メンバーを固定したほうがリスクは減る。