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メジャーは「サイン盗み」も世界一?
歴史は50年以上、ハイテク化も進行。
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byGetty Images
posted2019/04/10 10:30
2017年8月18日のレッドソックスvs.ヤンキース。走者二塁でレッドソックスのデバースがホームランを放った場面に対して「サイン盗み」の疑惑が浮上した。
捕手の二の腕に乱数表ボックス。
だが、しかし……。昨今はまったく違うものに成り下がってしまった。二塁走者が打者に球種を伝達してもお構いなし。自軍も同様なのだから、この手の報復は存在しなくなった。
その一方で、サインは複雑になった。捕手の二の腕には何パターンもの乱数表が入ったボックスが付けられ、走者が出るたびに使用する乱数表が変わる。
さらには、重要な局面では捕手がマウンドまで向かい数球先まで口頭で球種を決める。試合時間が長くなるのは当然のことだった。
2013年シーズン。こんな場面に出くわした。
9月9日、ボルチモアで行われたヤンキース対オリオールズ。当時ヤンキースの監督を務めていたジョー・ジラルディは、オリオールズの1回攻撃終了と同時にベンチから敵の三塁コーチャーに叫んだ。
「お前たちが何をやっているのか、我々は知っているぞ!」
当時のオリオールズは「サイン盗み」疑惑が絶えなかった。その伝達役として疑いが持たれていたのが三塁コーチャーだった。
ジラルディ監督の行いに血相を変えてベンチから飛び出したのが、オリオールズのバック・ショーウォルター監督。顔を真っ赤にしてジラルディに怒号を浴びせ、一触即発の事態となった。
ビデオ判定が拍車をかける結果に。
その翌日。ショーウォルター監督は試合前の定例会見でこう言った。
「サインを盗まれていると思うなら、変えればいいだけのことだろう。これは野球の一部だ」
指揮官が公然と「サイン盗み」を認める発言にオリオールズへのリスペクトは失くなった。
ハイテク化が急速に進む環境下、2014年から導入されたビデオ判定が更に「サイン盗み」に拍車をかけた。
総工費は30億円以上。日本では到底真似のできないこのシステムは、全30球場に設置されたテレビ中継カメラのライン(カメラ1台1台の)映像すべてがニューヨークにあるセンターにハイスピード・インターネット回線で送られる。
あらゆる角度の映像をスローリプレイで繰り返し検証できるハイテクノロジーは素晴らしいが、同時に各球団のベンチ裏にもコンパクト化された設備が整った。ビデオ判定を求めるか否かを担当者が確認するためである。