酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
斎藤佑樹も経験した「オープナー」。
評価は難しいが、経費削減の効果も。
posted2019/04/11 10:30
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Kyodo News
日本ではいまだに「投手の基本は先発完投」なんていう評論家がいるが、アメリカの野球界の変貌はめまぐるしい。先発・救援の分化、救援投手のクローザー、セットアッパーへの分化に飽き足らず、今度はオープナーだそうである。
昨年、タンパベイ・レイズは先発投手の日照りに泣いた。左腕エースのブレーク・スネルは21勝を挙げ、防御率1.89という素晴らしい成績。大投手バーランダーを差し置いてサイ・ヤング賞に輝いたが、他の先発陣は脆弱で、5勝を挙げた投手さえいなかった。
そこでケビン・キャッシュ監督は救援投手を先発で起用することに決めて5月19日のエンゼルス戦に、大層なあごひげで知られるクローザーのセルジオ・ロモを先発のマウンドにあげた。
ロモは11年におよぶMLBのキャリアで初めての先発マウンドだったが、ザック・コザート、マイク・トラウト、ジャスティン・アップトンを3者連続三振。ベテラン救援投手が先発転向か、と思ったが、ロモは1回で降板した。
「オープナー」という発想の転換。
驚くべきことに、ロモは次の日の同じカードにも先発して1と1/3回を投げ自責点0、さらに25日、27日にも先発した。25日のオリオールズ戦は打ち込まれ負け投手。27日の同じカードは1アウトを取る間に3失点した。
ただロモの先発起用に手応えを得たのか、キャッシュ監督はその後も救援投手を先発で起用し始めたのだ。これが「オープナー」のはじまりだ。
従来も救援投手が先発で起用されることはたまにあった。しかしそれはローテの谷間に救援投手を仕方なしにあてがうというものだった。また、その投手が好投すれば「いけるところまで投げさせる」ケースもよくあった。
しかし「オープナー」は、用兵思想が違う。救援専門投手を、試合の頭から「救援」として使うのだ。だから、他の場面で起用するのと同様、投げるのは1回か、せいぜい2回だ。
「オープナー」といえば、飲んべの私は「ワインオープナー」を思い出すが、ワインオープナーが、ワインの栓が開いてしまえば片付けられるのと同様、野球のオープナーも、試合が始まった直後にお役御免となるのだ。