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錦織圭「十分すぎる1年だった」
ファイナルズ敗退も自然と前向き。 

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秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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photograph byGetty Images

posted2018/11/16 11:40

錦織圭「十分すぎる1年だった」ファイナルズ敗退も自然と前向き。<Number Web> photograph by Getty Images

錦織圭の今シーズンは苦しい始まりだった。ここまで来られることをどれほどの人が予想しただろうか。

ティームは異なる方法で打開を試みた。

 一方、ティームは錦織と違う方法で不調の打開を試みた。ストリングスの張り方を変えたのだ。

 本人からの具体的な説明はなかったが、張りの強さ(テンション)を上げ、これまでナチュラルガットを張っていた縦糸にポリのストリングスを使っている。

「何かを変えなきゃいけなかった。大会の前は悪くなかった。練習もうまくいっていた。(ところが)ロジャーとの試合では信じられないようなミスをしてしまった。自分では何も悪くないと思えた。何かを変える必要があった。そもそも今日の試合では失うものは多くないのだから、試合で変えてみて、それがうまくいった」

「何かを変えなきゃいけなかった」は奇しくも錦織と同じ言葉だったが、両者の置かれた状況とそのアプローチ、そして結果はまったく異なる。

荒療治がプラスに出た。

 ティーム陣営は“してやったり”といったところだろう。選手にとってラケットとストリングスは自分の手の延長だが、そこに大きな変更を加えたのだ。錦織と同じようにティームも今大会のボールとコートサーフェスには違和感を持っていた。

 ツアー最終戦の大舞台で、ラウンドロビンはここまで2連敗。ならば、と荒療治を試みたのだ。通常のツアー大会で使える手ではないが、この大会はイチかバチかの作戦を試せる数少ない機会だったのも確かだ。

 午前の練習では強打を連発した。良い感覚を体にしみこませよう、変更したストリングスの感触を手のひらになじませようという意図だろう。

 彼らしくないミスも見られたが、開き直ったのが大きかったか、ティームは本来の強打を取り戻していた。捨て身の作戦だったが、それを成功させたティームとギュンター・ブレスニクコーチがあっぱれだった。

 錦織には苦境を抜け出す策はなかったのか。凡戦を2つ見せられ、なんとかならなかったのかと恨み節も出てくるが、これだけ深いクレバスに落ち込んだら、這い上がるのは簡単ではない。ティームはストリングスに助けてもらったが、選手には自分の力だけではどうにもできないことがある。

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ドミニク・ティーム

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