ひとりFBI ~Football Bureau of Investigation~BACK NUMBER
終盤突き放す川崎、逃げ切れぬ広島、
そして鹿島が見せた「勝者の作法」。
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byAFLO
posted2018/11/10 10:30
したたかに時間を使って試合を締める。“鹿島る”なんて言われ方もするが、鈴木優磨も気づけばその作法を手中にした。
鈴木優磨の粘っこいキープ。
粘っこいボールキープもその1つだ。敵のいないところ、いないところへボールを逃がし、敵陣両サイドの深い位置へ運んでいく。そこで中央から流れてきたFWの鈴木優磨が待ち構え、大地に根が張ったようなキープで時間をつくりだす寸法だ。
これに応じて、味方が鈴木との距離を詰めていく。ボールを失っても、すぐに囲い込んで回収し、逆襲の芽を摘む算段だ。仮に囲みを破られても、中央のエリアとは違い、まともに速攻を浴びるリスクも少ない。相手側からすれば、実にやりにくいわけである。
時計の針が進むにつれて、ペルセポリスの面々は苛立ちを募らせ、ついには反則行為に走って、退場者を出す始末。巧者鹿島の術中にまんまとハマった格好だ。
イラン勢(西アジア)とは初対決。特徴をつかむまで手間取ったが、それも前半まで。下がるな、ラインを上げろ――というベンチ(大岩剛監督)の指示も抜かりなく、待望の無失点で切り抜けて見せた。
ジーコが目を光らせた中で。
鹿島は決してポゼッション重視のチームではない。今季のJ1でも1試合平均のボールポゼッション率は48.9%(11位)だから、下から数えた方が早いくらいである。
それでも必要となれば、3つ目のセオリーを選択し、いざというときの「奥の手」として籠城戦を取り置きしておく。勝ちゲームの進め方、勝者の作法を心得ているわけだ。
しかも、ACL決勝という大一番で、それを涼しい顔でやってのけるのだから、筋金入りである。スタンドで神(ジーコ)が鋭い目を光らせていた――と言っても、おいそれとできる芸当ではないだろう。
いや、鹿島の真価が問われるのは完全敵地の第2戦か。10万人を超える大観衆を敵に回し、あとがなくなったペルセポリスの猛反撃をやり過ごさなければならない。
『180分(90分ハーフ)2本勝負』の折り返し。
あのさ、2点差の「利」を手にする側が圧倒的優位に決まってんじゃん――。そんな当たり前を堂々と口にできる「大人」として、ぜひとも節目の20冠目をつかみ取っていただきたい。