“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
それでもA代表に必要な杉岡大暉。
湘南で磨かれる驚異の攻撃力とは。
posted2018/11/10 08:00
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
Takahito Ando
J1第31節・湘南ベルマーレvs.清水エスパルスの一戦。61分に投入された杉岡大暉が、29分間で見せた「3本のアーリークロス」は、彼の成長に絶対に必要な新しい挑戦だった。
「あのクロスは自分の中でミスになったとしても、『餌だ』くらいの気持ちでやっていました。撒き餌ですね。それくらいの気持ちでやっていました」
このひと言は、数カ月前の杉岡からは絶対に出て来ない言葉だった。その言葉が生まれた裏には、彼が大きく一歩を踏み出したチャレンジがあった。
「自信を持って仕掛けられるようになったことが本当に大きいと思います。今は『来いよ!』くらいのノリで仕掛けられています」
この言葉の裏側には「それまでは自信を持って仕掛けられなかった」という思いが隠れていいる。今年に入り、杉岡は自信を掴みきれないでいたのだった。
「考えすぎていた部分があった。縦を切られて突破できなくなると、自分の自信までも奪われてしまっていた。そうなるとボールを失わないことばかり考えてしまって……」
「仕掛けなきゃ、仕掛けなきゃ……」
ルーキーイヤーだった昨年は3バックの一角としてプレーしながらも、積極果敢に攻撃に参加し、時にはFW顔負けのドリブル突破から強烈なシュートを突き刺すなど、躍動感溢れるプレーを随所に見せていた。
だが今季、左ウィングバックにポジションが変わったことで、より攻撃の機会が増え、積極的に「仕掛けなければならない」存在になっていた。
「調子が良い時は良い意味で何も考えずに仕掛けられていたのですが、悪い時は一変して1人であたふたしてしまって、『仕掛けなきゃ、仕掛けなきゃ』と思ってしまい、仕掛けているときも『これは偶然に成功しただけなんじゃないかな』と思ってしまう……。もう完全に負のスパイラルですよね」
ポジションが上がって、前に仕掛けるようになったことで強迫観念に取りつかれてしまっていた。もともとこのポジションをこなしているアタッカーならば、仕掛けることが当たり前なので、前への推進力を出すことに特段の抵抗はないだろう。だが、彼は市立船橋高校時代はCBを主戦場とし、年代別日本代表でも左サイドバックで起用されるなど、「守備の人間」だったのだ。
ただ、彼は守備だけの選手に収まらない、希有な才能を持っていた。
それがドリブルでの仕掛けだ。